レビュー
back number | 2016.11.15
「ハッピーエンド」というタイトルだけを見ると、明るい歌だと思ってしまいそうだが、実は別れをテーマとした悲痛なバラードだ。つまりタイトルは逆説的に使われている。ハッピーエンドを願いながらも、叶わないと悟った主人公の思いが描かれた歌、もしくはハッピーな日々に終止符を打とうとする歌といったところだろうか。切ない名曲を数多く世に送り出してきた彼らだが、その中でもこれは究極のバラードと言っていいだろう。
映画『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』の主題歌として書き下ろされた作品で、映画では20歳の男女が主人公になっているのだが、この曲は広い年齢層に当てはまる普遍性を備えている。プロデュースと共同アレンジは小林武史。シングル「ヒロイン」、さらには最新アルバム『シャンデリア』でも数曲を一緒に制作してきているので、おそらくかなり踏み込んだコラボレーションが実現しているのではないだろうか。まずピアノとストリングスによるイントロが秀逸だ。いきなり胸を突かれた。清水依与吏の歌とアコギ、さらにはピアノでAメロが始まり、そのままBメロへと展開し、切なさや痛みがじわじわと胸に染みていく。サビからベースとドラムが入ってくることで、パーソナルな世界が一気に立体的かつダイナミックに広がっていく。こうしたバンドサウンドの活用の仕方はback numberならではだろう。
清水による歌詞も見事だ。歌の主人公は女性なのだが、女性心理をこうも鮮やかに描けるソングライターはそうはいないだろう。これまでも清水は女性の視点からの曲をたくさん生み出してきたが、歌の世界観としてもっとも近いのは「fish」である。「ハッピーエンド」も「fish」も主人公の女性が“あなた”との別れの局面で、“さよなら”という言葉を言えずに葛藤しているという点で共通している。これらの曲が深く胸に刺さってくるのは悲しみだけでなく、幸せだった日々までもがうかがえるから。そしておそらくは清水が自分の胸の中にあるかさぶたを剥がすようにして、歌を作っているからだろう。“青いまま枯れてゆく”というフレーズは象徴的だ。相手のことは直接的には描かれていないが、思いやる心を持った優しい人間であることがわかる。おそらくこの別れでダメージを受けるのは主人公だけでなく、“あなた”も同様だろう。様々な感情、思い出が並行して伝わってくることによって、この「ハッピーエンド」は深みのあるバラードとして成立していると思うのだ。
曲が終わっても、悲しさや切なさの余韻が持続していく。そうした空気を払拭するかのように2曲目には明るい曲調の「君の恋人になったら」が配置されている。まだ恋は成就されていないのだが、恋のときめき、舞い上がり、妄想までもが描かれたハッピーな曲だ。だがひょっとしてこれは「ハッピーエンド」の前日譚なのではないか。付き合う前のふたりなのではないか。そんな考えがよぎったりもするから、back numberの曲は油断がならない。3曲目の「魔女と僕」は恋が人間をこんなに無力にしてしまうものだということが伝わってくる曲。恋という名の魔力をしなやかなバンドサウンドによって、ニュアンス豊かに表現している。back numberの曲が胸に強く響くのは恋愛模様を描きながら、その根底に人間の本質を真摯に見つめる眼差しがあるからだろう。
【文:長谷川 誠】
リリース情報
ハッピーエンド
発売日: 2016年11月16日
価格: ¥ 1,000(本体)+税
レーベル: ユニバーサル シグマ
収録曲
01.ハッピーエンド
02.君の恋人になったら
03.魔女と僕
04.ハッピーエンド (instrumental)
05.君の恋人になったら (instrumental)
06.魔女と僕 (instrumental)