レビュー
PUSHIM | 2016.11.16
アイデアと愛情が満載のこのカバーアルバムは、レゲエ歌手の枠を完全に超えている
あははは! 1曲目の「バナナ・ボート(DAY-O)」を聴いて、思わず笑い出してしまった。ジャマイカの労働歌だったものを、1956年に黒人歌手のハリー・ベラフォンテが歌ってアメリカで大ヒットした。日本でも浜村美智子が歌ってヒット。エキゾチックなラテンのリズムを当時4才だった僕もよく覚えている。
その曲をPUSHIMがどうカバーするのか楽しみにしていた。歌い出しはオリジナルに近い。ところが本編が始まってみると、オーセンチックなジャマイカンレゲエにアレンジされていて、本当にピッタリで思わず笑ってしまったというわけだ。ジャマイカでまだレゲエが発明される以前の曲を、その後にジャマイカで生まれたレゲエでやってみせるPUSHIM の“音楽的ユーモア”に驚くとともに、この快挙に拍手を贈りたくなった。
続く南 佳孝の「モンロー・ウォーク」は♪ジャマイカあたりのステップで♪という歌詞があって、これもジャマイカ繋がりの選曲か。これまたオリジナルに合ったカバーで楽しめる。
PUSHIMの気迫を感じたのは、井上陽水の代表曲「傘がない」だった。無理にレゲエにせずの直球勝負。アコースティックギターをメインにしたシンプルなバックで、PUSHIMのボーカリストとしての本領が発揮されている。そのシャウトの具合は、史上最高の女性ロックボーカリストのジャニス・ジョプリンの絶唱である「サマータイム」を思い起こさせる。
山口百恵の「プレイバック part 2」に、こんなにレゲエが似合うとは! これもビックリ&喝采のカバーだ。さらには美空ひばりがヒットさせ、その後、UAがカバーした名曲「リンゴ追分」にチャレンジするPUSHIMの心意気が頼もしい。ラストはスティーヴィー・ワンダーのヒットでお馴染みの「A Place In The Sun」を4ビートで歌いきる。アイデアと愛情が満載のこのカバーアルバムの出来は、昨今のカバーブームの中でも屈指の素晴らしさだ。
そしてこのアルバムにPUSHIMが寄せたコメントがいい。
「私が幼き頃から耳にしてきた古い日本の歌謡曲を、私なりに解釈し、マイクへと解き放ったものです。これらの楽曲達のひとつひとつの歌詞は本当に素晴らしいものばかりです。心の模様を形容する言葉、語りとなる行間、そして歌い手の表現力。この全てに私自身超えることは出来ませんが、私の世界、そして新曲として聴いて下さい」
謙虚なこのコメントが、彼女のアーティストとしての資質の高さをそのまま表わしている。
【文:平山雄一】
リリース情報
カバーアルバム「THE ノスタルジックス」
発売日: 2016年11月16日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: 徳間ジャパンコミュニケーションズ
収録曲
【収録曲】
1. バナナ・ボート (DAY-O) / (浜村美智子 / 1957年)
作詞・作曲:L.Burgess、W.Attaway / 訳詞:井田誠一
2. モンロー・ウォーク / (南佳孝 / 1979年)
作詞:来生えつこ / 作曲:南佳孝
3. 虹の彼方に (Over The Rainbow) / (美空ひばり / 1961年)
作詞:E.Y.Harburg / 作曲:Harold Arlen / 日本語詞:水島哲
4. 黄昏のビギン / (水原弘 / 1959年)
作詞:永六輔 / 作曲:中村八大
5. 傘がない / (井上陽水 / 1972年)
作詞・作曲:井上陽水
6. プレイバック part2 / (山口百恵 / 1978年)
作詞:阿木燿子 / 作曲:宇崎竜童
7. ラストダンスは私に (Save The Last Dance For Me) / (越路吹雪 / 1961年)
作詞・作曲:Doc Pomus、Mort Schuman / 訳詞:岩谷時子
8. 見上げてごらん夜の星を / (坂本九 / 1963年)
作詞:永六輔 / 作曲:いずみたく
(Bonus Track)
9. リンゴ追分 (Live ver.) / (美空ひばり / 1952年)
作詞:小沢不二夫 / 作曲:米山正夫
10. A Place In The Sun (Live ver.) / (スティービー・ワンダー / 1966年)