レビュー

back number | 2016.12.28

 喜びと悲しみはまるで一枚のコインの裏表のように交互に訪れたりする。特に恋愛においてはその傾向は顕著だ。幸せな日々が突然もろくも崩れ去り、不幸のどん底へと突き落とされたりする。back numberの音楽はそうした困難な状況に直面した人間の心模様をも鮮やかに浮き彫りにしていく。彼らの初のベストアルバム『アンコール』は切ないラブソングの名曲がこれでもかとばかりに収録された作品だ。二枚組で32曲収録。「クリスマスソング」「花束」など、ヒット曲が多数収録されていて、彼らがコンスタントにハイクオリティーの作品を産み出し続けてきたことも見えてくる。つまりこれは実にベストらしいベストだ。

 切ない歌、悲しい歌が目立っている。両思いの歌もあるが、いつか壊れるのではないかという不安があったり、とまどいや葛藤があったりして、手放しでハッピーという曲はほとんどない。細かく見ていくと、「ハッピーエンド」「はなびら」「fish」「君がドアを閉めた後」「エンディング」「春を歌にして」など、失恋がモチーフとなった歌が10曲、「高嶺の花子さん」「stay with me」「恋」「幸せ」など、かなわぬ片思いが描かれた歌が6曲収録されている。恋愛をしている人はもちろんのこと、恋愛からは百万光年も遠いところにいるという人間にもしっかり響いてくるのは、清水依与吏がリアルな人間の姿を的確に描いているからだろう。失恋の痛みは大切な何かを失ったり、挫折したり、認められなかったりしたときの痛みにも通じそうだ。失恋を歌うことは、不条理な状況や極限状況に置かれた人間を歌うことでもある。back numberがラブソングの名手でありながら、ロックバンドとしての強靱さを持ち続けているのは人間という存在を見つめるまなざしの強さと深さがあるからだろう。

 彼らはラブソングの名手であると同時に、日常と寄り添っていく身近な生活の歌の名手でもある。日々の暮らしの中で大切なものは何なのか。人間を照らして、導いてくれるものは何なのか。そんな視点が彼らの歌には存在している。「光の街」「電車の窓から」「手紙」といったヒューマンな歌も素晴らしい。これらの歌は男女の恋愛を超えた広い意味でのラブソングでもありそうだ。アルバムの最後を締めくくる「スーパースターになったら」はラブソングであると同時にリスナーへの思いを歌った歌であり、バンドがさらに先へと進んでいくことを宣言する歌とも解釈できそうだ。彼らは数多くの名曲を生み出して、多くの人々から支持されてきたが、このベストは通過点にすぎないのだろう。この曲をラストに持ってきたことからは“まだまだこれから”というバンドの意志が伝わってくる気がした。つまり“アンコール”が終わったら、また新しいステージの1曲目が始まっていくということだ。

【文:長谷川 誠】

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リリース情報

アンコール[CD×2+DVD×2 or Blu-ray+ライブフォトブック]

アンコール[CD×2+DVD×2 or Blu-ray+ライブフォトブック]

発売日: 2016年12月28日

価格: ¥ 7,800(本体)+税

レーベル: ユニバーサル シグマ

収録曲

[Disc 1]
1.高嶺の花子さん
2.花束
3.ハッピーエンド
4.クリスマスソング
5.はなびら
6.黒い猫の歌
7.fish
8.君がドアを閉めた後
9.青い春
10.光の街
11.stay with me
12.MOTTO
13.恋
14.世田谷ラブストーリー
15.半透明人間
16.日曜日
[Disc 2]
1.春を歌にして
2.僕の名前を
3.SISTER
4.助演女優症
5.繋いだ手から
6.エンディング
7.そのドレスちょっと待った
8.わたがし
9.電車の窓から
10.ヒロイン
11.幸せ
12.アップルパイ
13.003
14.手紙
15.思い出せなくなるその日まで
16.スーパースターになったら

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