レビュー
平山雄一 ウィークリーレビュー | 2016.12.28
“それぞれのひび”を探せ!
“すばらしいひび”の第83回目(2015年8月12日)で、僕はback numberのシングル「手紙」を取り上げた。聴いていて胸がヒリヒリするのが特長のバンドが、両親への感謝を優しく歌ったこのバラードは、僕にとって意外な作品だった。いつもはアノ手コノ手で感情のややこしいヒダを描くバンドが、なんの仕掛けもなく“愛”を歌う。聴いていて思わず照れてしまったことを書いたら、読者からうれしいリアクションがあった。
「感動しました。ただのお知らせ的なレビューじゃなくて、心がどんなふうに揺らされたか、なぜ名曲なのか、言葉で、こんなにスッキリ語れるなんて」。
感想を書いてくださったのは、きっとback numberのファンの方だと思う。おそらくこの方は「手紙」を聴いて、僕と同じことを感じたのだ。ただ、なかなかそれを言葉にできなかったのかもしれない。それが、もしこのコラムを読むことでスッキリしてくれたのなら、こんなにうれしいことはない。感じたことを言葉にするのが僕の仕事だから。
それから2ヵ月後の第93回目には、キュウソネコカミの『人生はまだまだ続く』を取り上げた。おバカなフリをして真実を突く歌が得意なこのバンドの歌詞が、グッと一歩前進したアルバムだった。キーワードは“ポンコツ”。壊れる寸前の人間や機械を指す言葉だ。世の中では厄介者扱いされるポンコツを、自分たちを含めて愛すべき存在だと肯定する。その姿勢に僕は感動した。
連載をしていて思ったのは、優れたアルバムや印象に残る歌が、ある時期に集中して発表されることの不思議だ。この2015年の夏から秋にかけて、そうした作品と次々に出会うことができた。そして、それらを言葉にして皆さんと共有することができたのは幸運だった。
もしかするとこうした“当たり年”は、自分の“音楽欲”が高まっている時期なのかもしれない。もちろん個々の傑作があってこそだが、自分自身が音楽を必要としているなら、その時期にいい音楽を見逃すことはない。そんなときに出会った歌は、一生忘れられないものになるだろう。
今回で“すばらしいひび”は終わるが、皆さんの一人ひとりが音楽を必要としているなら、きっと“当たり年”がやって来ると思う。そんなときは、楽しみながら“それぞれのひび”を探してみてください。
僕自身も一生の仕事として“すばらしいひび”を探究し続ける。もし興味があったら平山HPや平山FBをたまに覗いてみてください。
ありがとう、さようなら!
【文:平山 雄一】