レビュー
Suchmos | 2017.01.24
左隣にはブルーズのカバーばかりやっていた60年代初頭のザ・ローリング・ストーンズのアルバムを、右隣にはアシッドジャズ時代のザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズやジャミロクワイのアルバムを、あるいはノーザン・ソウルのコンピレーションアルバムを並べる。もし、Suchmosについての言及を求められたら、少なくとも1年ほど前までならそのように紹介していただろう。ブラックミュージックをポップス、あるいはロックの枠組みで捉えたジャパニーズグルーヴだと。
だが、昨年ヒットした「STAY TUNE」も収録したこの新作を聴いて、少し見方が変わってきた。これは、さしずめ90年代なら「ミュージックステーション」を通じてBLANKEY JET CITYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを知ったようなリスナーが出会うべき音楽ではないかと。あるいはシティポップス再評価云々の時代に、シュガー・ベイブのコード進行を語るのではなく、スカジャンを羽織ってドヤ顔でフロアに降りてきてステップを踏むような音楽ではないかと。もちろん、嫌味でもなんでもない。ブランキーやミッシェルがストリートのにおいがするロックンロールをお茶の間へ持ち込んだ実績を無視できないように、不良(ヤンキー)のにおいがする黒っぽいダンスミュージックを音楽クラスタ以外のリスナーの生活の中にまで浸透させたその功績は大きいということだ。
実際に、その手ごたえの大きさをこのアルバムの隅々から感じ取ることができる。どの曲にもフックの効いたリフと、フレーズの繰り返し、唱和できるようなサビ、しなやかなグルーヴが綿密に与えられていて、その見事な構成、明快な展開は過去の作品にはないほどだ。さらに明確なのは、アンサンブルそのものはバランスがとれているが、音圧は高く、楽器の音もシャープに処理されていてエッジーだということ。例えば6曲目「DUMBO」などは90年代後半のオルタナティブロックの時代の作品にも似た荒々しく尖った音作りへのアプローチを垣間見ることもできるし、5曲目「SNOOZE」は、一聴すると滑らかなハイトーンボーカルが軸になっているが、楽曲と演奏自体はかなりハードで音も金属的だ。「ARE WE ALONE」や「BODY」のようなメロウな曲もバックトラックのアレンジは徹底的に鋭利で刺激に溢れている。
乱暴に言うと、一聴するとブラックミュージックの素地を生かしたジャパニーズグルーヴだが、根っこにはわかりやすいまでにロック音楽の持つ挑発性、攻撃性があり、それが音作りにハッキリ現れるようになったところが本作の大きな特徴であり、Suchmosというバンドをこの時期にさらにオーバーグラウンドへと引き上げることとなったカギではないかと思う。そうしたある種のロック幻想のようなものを孕ませた事実をサウンドプロダクションで明確に出した結果、彼らの音楽は黒人音楽を咀嚼した云々といったエクスキューズ抜きに、不特定多数へと訴えることができる純然たるJポップへと昇華したと言っても過言ではないだろう。
ここまで来たら、彼らはもう、日本武道館や東京ドームなどを埋め尽くす存在にまで行くべきだ。ストーンズやノーザン・ソウルなんて知らない潜在的な音楽ファンをどこまでも踊らせる。現在の星野 源がそうであるように。
【文:岡村詩野】
リリース情報
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THE KIDS[限定盤]
発売日: 2017年01月25日
価格: ¥ 3,500(本体)+税
レーベル: SPACE SHOWER MUSIC
収録曲
[CD]
01. A.G.I.T.
02. STAY TUNE
03. PINKVIBES
04. TOBACCO
05. SNOOZE
06. DUMBO
07. INTERLUDE S.G.S.4
08. MINT
09. SEAWEED
10. ARE WE ALONE
11. BODY
[DVD]
01. Pacific
02. YMM
03. JET COAST
04. GAGA
05. DUMBO
06. STAY TUNE
07. MINT
08. Life Easy