レビュー
そこに鳴る | 2017.02.08
「ワクワク」という感情が生まれるきっかけは、理屈を超越したものであることが多い。バイクのヘルメットの頭頂部に角のような突起が付いていても機能上は何の意味もないのだろうが、それがあるだけで妙にかっこよく見える。大衆食堂で食べるチャーハンに入っているエビは美味しくないことが多いが、それでも2、3個入っていればうれしくなってしまう。フェラーリのバタフライドアが開いたら、「開け閉めが面倒くさそうだな」と思いつつも、「おおおっ!」という感じになる。このようなことは、音楽に関しても言えるのではないだろうか。「こういう要素が入っていると、なんか知らないけど昂ぶっちゃう」というものをためらううことなく目一杯に注ぎ込んで届けるのが、このバンド“そこに鳴る”だ。
例えば、彼らの曲で多用されるギターのタッピングプレイは、興奮をストレートに誘うエッセンスの代表格だと言えよう。ピックで弦を弾くのではなく、フィンガーボードの上にある弦を指で押すこの奏法は、ピロピロとした煌びやかな音を出せるので、曲に華やかな印象を添えることができる。しかも、テクニカルなプレイに見えやすいので、演奏している姿を観ると、自ずと喝采を送りたくなるという面もある。“激しいバスドラムの連打”“リスナーの涙を全部絞り上げようとでもするかのような哀愁のメロディ”“神々しいハーモニー”“男女混成ボーカルによって生まれるドラマチックさ”“爽快な風が吹いてくるような気がしてくるスピード感”など、彼らの必殺技は、ほかにもいろいろあるが、“ワクワクできるトッピングの全部のせ”とでも言うべきことをやってのける作風は、最新作『METALIN』でもカラフルに開花している。
熱く高鳴り続ける展開が文句なしにかっこいい「Break out!!!」、タッピングプレイと壮大なメロディが嵐のように吹き荒れる「新世界より」、アニメソングにも通ずる抒情的なメロディをヘヴィメタル風味の爆音に託してダイナミックにブチ上げる「METALIN」……冒頭の3曲の時点で、彼らがタダモノではないことがよくわかるはずだ。清々しい音像にじっくり浸りきれるラストの曲「sayonara blue」に辿り着く頃には、圧倒的な興奮があらゆるリスナーの胸の中で燃え盛ることになるだろう。
このバンドが積極的に導入する“ワクワク”の起爆剤は、何かと軽視されがちなものであるのも面白い。細かなフレーズを連発すると“テクニック至上主義”という否定的な意見が飛び出し、ドラマチックなメロディを響かせると“くさい”と否定され、ギタリストがソロを華麗に奏でると“ダサい”と言われたりもする。しかし、これらの要素もセンス良く使用すれば、素敵な輝きを放てることを、彼らの音楽は堂々と証明している。ロックの歴史を振り返ってみると、存在感のあるバンドは“マジか!?”とビックリしてしまうくらいに過剰なことを大胆不敵にやってのけた人たちばかりだ。ともすればストイック至上主義に陥りがちなロックシーンに、“そこに鳴る”は痛快な風穴を開けられる存在だと思う。これからも大いに暴れまくってほしい。
【文:田中 大】
リリース情報
METALIN
発売日: 2017年02月08日
価格: ¥ 1,800(本体)+税
レーベル: KOGA RECORDS
収録曲
1. Break out!!!
2. 新世界より
3. METALIN
4. family
5. 藍色の明日へ
6. 星の行方
7. sayonara blue