レビュー
クリープハイプ | 2017.02.21
剥き出しなのに、剥き出しであるということ自体がフィルターになって結局、本質を見えづらくしてしまうってのは案外よくある。剥き出しであるという状態、あるいは剥き出しにするという行為は大抵の剥き出しではない人たち(剥き出しにしていない人たち、でもいい)にとっては奇異に違いないし、たぶんとても恐ろしい。もちろん、それゆえにファナティックなほどに人を惹きつけもするのだけど。
クリープハイプというバンドにはおそらく、そして長らく、そうしたフィルターがかかっていたように思う。音楽性より先にフロントマンであり、バンドのメインソングライターである尾崎世界観の人間性や思想性、それこそ“世界観”や、バンドを取り巻く状況の変化が興味本位で取り沙汰されたことも少なくなかったはずだ。だからといって、それが誰のせいだとか、良いとか悪いとかいう話をここでしたいのではなく。今のクリープハイプはただ純粋に剥き出しで、そんな彼らの奏でる音楽がただ素直に心地好い、それだけ伝えられればいい。
シングルでもミニアルバムでもなく“作品集”という新たなカテゴリーで2月22日にリリースされる彼らの最新音源『もうすぐ着くから待っててね』。一聴して、その伸びやかさに驚かされた。肩肘張らないリラックスした空気感、無邪気に音楽と向き合うウキウキとした様子が目の前に立ちのぼってくるような気さえする。閉塞感を突き破るべく渾身でバットを振り抜いた2016年の傑作『世界観』をリリースしたこと、それが世の多くの人々に受け入れられたことはやはり相当に大きかったのだろう(引いては尾崎の初小説『祐介』の刊行も)、まるで憑き物が落ちたように今作は健やかだ。 “ただそばにいて とか言えなくて”に始まり“ただ ただちゃんと/ただ ただ好きなんだよ”で結ばれる1曲目「ただ」。例えば「バンド」(『世界観』)や「さっきはごめんね、ありがとう」( 『吹き零れる程のI、哀、愛』)など大切な人への愛情を歌った曲は過去の作品にもあるけれど、それらの“一周まわって素直に言ってみた”感がこの歌にはない。というか、一周まわってない。至近距離でまっすぐに差し出される心情がたじろぐほどに温かいのだ。 甘やかでファンキーなカッティングギターをアクセントにして繊細ながらもポップに展開する「陽」の吹っ切れた王道感も実に痛快。同曲では、こちらも個性的なボーカリストであるKANA-BOON・谷口鮪とのコラボレーションも実現(「陽 クリープハイプ×谷口鮪 (KANA-BOON)」として5曲目に収録)、東京メトロのキャンペーン「Find my Tokyo.」の第4弾CMソングへの起用も相まって話題を呼んだが、今の彼らにはそうしたメジャーな潮流にも自ら進んで乗り、面白がれるだけの揺るぎなさが備わったように思える。 さらには高速ベースリフが唸りを上げるパンキッシュな「は?」、ノスタルジックな情景がむしろ瑞々しく沁みる「校庭の隅に二人、風が吹いて今なら言えるかな」と実にバリエーション豊かな全5曲。
待ち合わせに遅刻しそうになったとき、携帯で「もうすぐ着くから待っててね」と言える関係性を聴いてくれる人に提示したい。そんな想いが込められたこのタイトル。リスナーとバンドの間に築き上げられた信頼感が今作を生んだと言ってもいいのかもしれない。この先の彼らがどうなるかなんてことは、きっと彼ら自身にもわからないだろうけれど、だからこそ今、クリープハイプに触れておくべきだと強く強く勧めたい。
【文:本間 夕子】
リリース情報
もうすぐ着くから待っててね
発売日: 2017年02月22日
価格: ¥ 1,500(本体)+税
レーベル: ユニバーサルシグマ
収録曲
1. ただ
2. 陽
3. は?
4. 校庭の隅に二人、風が吹いて今なら言えるかな
5. 陽 クリープハイプ×谷口鮪 (KANA-BOON) ver