レビュー
HY | 2017.03.01
ラストに収められたタイトルチューン「CHANCE」の♪きっといつか もっと自由に空を飛べたのなら 君を連れて行きたい♪という最後のフレーズが力強いサウンドに乗せて放たれ、そしてバンドの演奏がカットアウトする。次の瞬間、自分がものすごく軽やかで、あくまでも自然に、どこまでも前向きな気持ちになっていることに気づかされる。HYの新作は“生きる”ということの、その丸ごと全部を肯定しているような、そんなアルバムだ。
話題となったBIGMAMAとのコラボレーション作品『Synchronicity』から約8ヵ月、単独のオリジナルアルバムとしては『LIFE』以来約1年8ヵ月ぶり。通算12枚目となるHYのニューアルバム『CHANCE』が届けられた。
アルバムに寄せられた新里英之のコメントによると「僕らはCHANCEを掴み、逃さないように大事にして来ました。でも、時には自ら逃したり、そこで知るCHANCEの大切さだったり、CHANCEを見つけようとする事、掴みに行く事、そこに人の生きる意味が沢山ある事も知りました」とのこと。このアルバムには掴んだものだけでなく逃したものも含めて、たくさんの“CHANCE=機会”が歌い込まれている。
冒頭を飾るのは「HAPPY」。勢いよく駆け出すような印象の鮮やかなポップチューンだ。主人公が幸福な気持ちを知るきっかけとなった“あなた”への感謝の歌。3分ちょっとの中にぎゅっと詰め込まれた爆発するような喜び。痛快だ。
続く「BLUE」も疾走感溢れるフレッシュなナンバーだが、こちらで描かれるのは、まだ片思いの状態。チャンスをつかもうとしてドキドキワクワクしている主人公を瑞々しく表現する。
そして賑やかでエネルギッシュな「バタフライ」へ。♪あの日 あの時 積み重ねて今があるでしょ♪という一節。それは我々の人生には数多くのチャンスが訪れることを思い出させてくれる。
たたみ掛けるような最初の3曲を経て、それ以降の中盤では幅広い曲調で魅了する。切なさに胸が締めつけられる「ロックスター」。大人っぽい落ち着いた雰囲気のバラード「あの日のまま」。一転してハードに転がる「光」。さらにガラッと変わってホーンやゴスペル調のコーラスも飛び出す「ありがとう」。とことんポップで楽しくて、でもちょっぴり切ない「君の声」。
終盤の聴きどころとなるのが「三月の陽炎」。沖縄音階のエモーショナルなミディアムナンバーだ。三線やストリングスを配した繊細かつドラマチックなアレンジ。溢れ出す気持ちを丁寧に紡いでいくボーカル。喪失感を希望で包み込んだ癒しの歌だ。
前述のようにラストは表題曲「CHANCE」。限界だと感じたときこそ、もしかしたら最大のチャンスかもしれないんだよ。素直で熱のこもった歌と演奏に乗せて、そんなメッセージを届ける。
そして♪きっといつか もっと自由に空を飛べたのなら 君を連れて行きたい♪という最後の言葉。それは「その機会は必ず訪れるに違いないから、そうなったときは絶対に逃さないぞ」と宣言しているようにも感じられる。だから、このアルバムが終わると我々聴き手は、これから訪れるであろうCHANCEのためにしっかり生きていこう、一つひとつの機会を大切にしながら前に進んでいこう、という気持ちになるのだ。
【文:大野貴史】
リリース情報
CHANCE[初回限定盤]
発売日: 2017年03月01日
価格: ¥ 3,800(本体)+税
レーベル: ユニバーサルミュージック
収録曲
01.HAPPY
02.BLUE
03.バタフライ
04.ロックスター
05.あの日のまま
06.光
07.ありがとう
08.君の声
09.三月の陽炎
10.CHANCE
特典CD
・DEBUと言われて
特典DVD
・HAPPY Music Video
・HAPPY Music Video Making
・極愛 Music Video
・my friend Music Video