レビュー
コレサワ | 2017.03.28
この夏に日本クラウンからメジャーデビューすることが決定した大阪出身の女性シンガーソングライター、コレサワ。彼女の音楽の中には、ちょっと意地っ張りで不器用な女の子が住んでいて、言いたくても言えない思いを抱えて葛藤していたり、言わなければよかったことを言ってしまって後悔していたりする。その言葉一つひとつがリアルで等身大の息吹に満ちており、特に同性からの共感度が高い。現時点では、メディアに顔出しをせず(インタビューの際は顔だけの着ぐるみを装着。ライブは素顔でパフォーマンスしてる)、ジャケットやアーティト写真などのビジュアルを自身の“分身”とも言えるクマの女の子のキャラクター“れ子ちゃん”が担当していることも関係しているかもしれないが、リスナーが“私と似ている”と自分の経験を重ねることができる楽曲が多い。
例えば、2015年4月にリリースした1st EP「君のバンド」は、音楽や映画の趣味がまったく異なる“君”と“あたし”の物語だ。園 子温の「恋の罪」やライブハウスでしか聴けないようなロックバンドが好きな“あたし”は、お涙頂戴のラブストーリー映画やテレビで流れる売れ線が好きな“君”と交わらないながらも側にいて、いつか“あたしの好きなちっとも売れないバンド”が“とってもとっても”売れたら、“君”と一緒に手を繋いでライブに行きたいなと願っている。♪あたしの好きなバンドはなぜかちっともちっとも売れない♪という歌い出しに、“わかる、わかる”という人も多いと思うが、売れないバンド、売れてるバンドのどちらに対しても、ちょっとだけ毒を吐いているところも見逃せない。
また、同年12月にリリースした2nd EP「女子、ジョーキョー。」のリード曲「あたしを彼女にしたいなら」は、リア充のウェデイングソングとして定着した西野カナのヒット曲「トリセツ」のシンガーソングライターからのアンサーソングにも聞こえる。♪永遠なんてアウトワード♪で♪夢ばっか見せないでね♪から始まり、♪いつか終わりがくることを 心得て愛してね♪で締められており、理想ではない、現実的なワードが並んでいる。
続く、昨年9月リリースの3rd EP「ジエイポップ」にはタイトルどおり、J-POPが大好きな彼女らしいキャッチーな楽曲が詰まっており、表題曲は前述の「君のバンド」の“君”と“あたし”が逆転した内容で価値観の違いを認め合いたいと歌ってる。ロングヘアの“あたし”が“君”に「ロングとショートどっちが好き?」と聞くも、目の前で「ショート」と答えられて撃沈する「ショートカットに憧れて」や、愚痴や涙や失敗をリセットするのではなく、全部ちゃんとバックアップするのだと決意する「バックアップ」も同性からのシンパシシーを集めている。
そして、インディーズ最後の配信曲となる「たばこ」。すでに数々のシンガーソングライターにカバーされている初期の楽曲で、同棲していた恋人と別れた24時間後の心境が描かれている。♪もっとちゃんと僕をみててよ♪という言葉のせいで出て行ってしまったのかと振り返り、♪もっとちゃんと君をみてれば♪と後悔しながら、“君”が置いていった“たばこ”に火をつけて、むせ返り、涙を流す。ここでも“たばこ”は、好きな人の好きなもので、私の嫌いなもの――許容していた価値観の違いの象徴として描かれている。特筆すべきは、基本的には“あたし”の気持ちを歌っている彼女が“君”と“僕”という一人称を使ってる点にあるだろう。泣けるMVとして話題になっているMVは“れ子ちゃん”が主人公になっているが、音源だけを聴くと、異性である男性のリスナーも自分の姿を投影できる失恋ソングとなっている。3rd E.P.「ジェイポップ」のジャケットでは、“れ子ちゃん”がクラウンチングスタートを切っていた。彼女が走り出した先に見据えるゴールは、“新世代の女心の代弁者”ではなく、聴き手の年齢や性別を選ばない、世代を超えて歌い継がれていくポップスシンガーなのかもしれない。
【文:永堀アツオ】
リリース情報
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[配信シングル]たばこ
発売日: 2017年03月29日
価格: ¥ 250(本体)+税
レーベル: RECO RECORDS
収録曲
たばこ
2017.3.29配信(iTunes、レコチョク他にて)
LINE MUSICでは3月22日から先行配信