レビュー
amazarashi | 2017.03.30
♪暗い歌ばっかり歌いやがってと人は言うが/これだけは本気でゆずれないんだ♪。「ライフイズビューティフル」という曲の一節だ。オリジナルアルバムとしてはいちばん新しい作品『世界収束二一一六』に収録されている曲であり、amazarashiの全曲のソングライティングを手がける秋田ひろむが、自分自身がバンドマンとして歌い続けてきたなかで見た景色と、この先も歌い続けるという決意が込められている。amazarashiの曲は、たしかに暗い。その歌詞には、自殺願望、人間不信、世界の終わりや原罪、社会の不条理がこれでもかと詰め込まれている。だが、amazarashiが届けるのは、“それでも”の歌だ。金はなく生活がつらい、それでも。才能もないし将来は不安、それでも。世間は冷たい、それでも。
amazarashiが3月29日にリリースした初のベストアルバム『メッセージボトル』は、2009年のインディーズデビューからこれまでの8年間に発表してきた、そんな“それでも”の歌たちが収録されている。CDは2枚組で全26曲。シングルリリースの少ないバンドなので、インディーズ盤の『光、再考』も含めて、アルバム、ミニアルバムから、本人が“今後も歌い続けるだろう”と思う曲たちが数曲ずつセレクトされ、それがリリース順に並んでいる。この作品を聴けば、amazarashiとは、“言葉”で自分自身のなかにある真実を歌い続け、嘘のない歌を届けてきたバンドだとわかる。同時に、メディアに一切を顔を出さず、ライブですら紗幕を使い、スクリーンに本人の姿を映すことのないamazarashi=秋田ひろむの素顔を、何よりも鮮明に伝えているのは、楽曲そのものだと改めて思った。
「光、再考」や「ワンルーム叙事詩」では、売れない時代に歯を食いしばって歌い続けてきた過去が、「ラブソング」や「多数決」では、世間一般の価値観にいつも疑問を抱いてしまう面倒くさい性分が、「無題」では“画家”の姿を借りて、作り手としての矜持が描かれている。「夏を待っていました」や「美しき思い出」からは、きっと色褪せない故郷の記憶を大事に胸にしまう人物や、「この街で生きている」や「ひろ」からは、情に厚くて、友達想い、そんな人となりも垣間見える。その作風は、実体験に近いであろう部分まで赤裸々に描くことが多かった初期作から、近作では、より思想的になっていく傾向はあるが、一貫して、歌の奥には、人間が見える。amazarashiは、楽曲以外のある種、誤解を与えやすい場所では素顔を見せないことで、その音楽のなかでリアルな素顔を曝け出すバンドだと思う。
そして、否が応でも深く考えさせられる重みのある言葉たちを、もうひとりのメンバーである豊川真奈美が奏でるピアノと共にドラマチックなバンドサウンドで彩り、それがよりダイナミックに進化していくところもまた、このベスト盤の聴きどころのひとつだ。
“メッセージボトル”というアルバムタイトルは、インディーズ時代に企画したイベントの名前だったという。「その時の僕らの歌は宛てのない手紙であり、願いであり、SOSでした」と、秋田ひろむはコメントを寄せている。救いの手紙を入れた小瓶を海に浮かべて、名前も知らない誰かに届ける。もしかしたら、誰にも届かないかもしれない。そういう想いで書いた歌たちと、この先、大勢のリスナーがいることを前提として生まれる歌とは、当然違うものになってくるだろう。だからこそ、ただ音楽に救いを求めて歌い続けてきたamazarashiの原点を、いま“メッセージボトル”と名づけて世に出すことには、大きな意義がある。今作には、ここでバンドを一区切りするというamazarashiの強い意志も感じた。
【文:秦 理絵】
リリース情報
メッセージボトル
発売日: 2017年03月29日
価格: ¥ 2,800(本体)+税
レーベル: SMAR
収録曲
DISC 1
1. 光、再考
2. つじつま合わせに生まれた僕等
3. 夏を待っていました
4. 無題
5. 奇跡
6. ワンルーム叙事詩
7. さくら
8. この街で生きている
9. 空っぽの空に潰される
10. 美しき思い出
11. ラブソング
12. ナモナキヒト
DISC 2
1. ジュブナイル
2. 性善説
3. 終わりで始まり
4. 冷凍睡眠
5. スターライト
6. ひろ
7. 季節は次々死んでいく
8. スピードと摩擦
9. 多数決
10. ライフイズビューティフル
11. 僕が死のうと思ったのは
12. 命にふさわしい
13. ヒーロー
14. つじつま合わせに生まれた僕等(2017)