レビュー
集団行動 | 2017.06.28
集団行動というバンドを、そしてこの『集団行動』というセルフタイトルのファーストアルバムを語るにあたり、相対性理論について触れないわけにはいかないだろう。2006年結成、00年代~テン年代の日本のインディーバンドや多くの女性シンガーに影響を与え続けるカルト的バンド、それが相対性理論だ。そのベーシストにして結成メンバーであり、特に評価の高い初期におけるソングライティングの中心を担っていた真部脩一が、2012年の同バンド脱退後ついに自身を中心とした新バンドを結成。それが本稿の主役である集団行動である。
ボーカルを務めるのは講談社主催のアイドルオーディション『ミスiD2016』のファイナリスト、齋藤里菜。そして同じく元・相対性理論である西浦謙助がドラマーを担当という“新しい初期の相対性理論”とも言える編成となっている。もちろん“新しい初期の相対性理論”なんて表現は、ファンや関係者の誰もが良い顔をしないだろう。しかし当の真部脩一が過去のインタビューにおいて相対性理論でやり残したことがあると語っていること、そして相対性理論が持っていた新しさを“被批評性の高さ”と自己分析していたことからも、そうした意見は織り込み済みだろう。
ギター、ベース、ドラムを基本としながら、時々シンセが味付けするシンプルなサウンドプロダクション。童謡のようにシンプルなメロディーを、フックの効いたリリックとひねりを加えた譜割でスペシャルに変える音楽性。そんな楽曲が7曲収録された本作から見えるのは、やはり相対性理論であり、そのボーカルであるやくしるえつこの幻影だ。
タクシーをモチーフに性的なものを露骨に匂わせながらも、気持ちはそこにはない「バックシート・フェアウェル」を中心に、各収録曲のリリックから感じ取れるのは“現状を断ち切りたい”という思いと“ここではないどこか、まだ見ぬ何か”への渇望。これには真部脩一が相対性理論を脱退後、その看板を失ったことから周囲の人間に手のひらを返されたという経験がその一因になっていると考えずにいられない。そう考えれば「集団行動」というバンド名と作品名は、非常にシンボリックと言えないだろうか?
相対性理論のどこかすっとぼけた愛らしさはそのままに、文学的な少女性よりも「リアル」に寄せた世界観。そして、やくしまるえつこのそれよりも血の気が通った齋藤里菜のボーカルは、一見とてもフィジカルで健全だ。しかし、その裏にはまだ何かが潜んでいるようにも感じ取れる。
【文:照沼健太】
リリース情報
集団行動
発売日: 2017年06月28日
価格: ¥ 2,000(本体)+税
レーベル: ビクターエンタテインメント
収録曲
1. ホーミング・ユー
2. ぐるぐる巻き
3. 東京ミシュラン24時
4. バイ・バイ・ブラックボード
5. 土星の環
6. AED
7. バックシート・フェアウェル