レビュー

KICK THE CAN CREW | 2017.08.29

 KICK THE CAN CREWが13年8ヵ月ぶりにリリースするアルバム『KICK!』を聴いて、複数のMCがラップを交わし合うスタイルのグループが、意外と今の音楽シーンの表舞台に見当たらなくなっていることに気づかされた。もちろんベテラン勢も含めて、活躍している人たちが存在しないわけではないのだが、おそらく十代の若者に「ヒップホップアーティストとして思い浮かぶのは?」と訊けば、挙がるのはソロラッパーやフリースタイルバトルを繰り広げるテレビ番組の出演者なのではないだろうか。ヒップホップをもっと好きになれる可能性がある音楽リスナーに、今作を聴いてぜひ実感してほしい。「3MCのグループは猛烈にかっこいい!」と。

 KICK THE CAN CREWは、ここ数年、時々ライヴをしていたが、結成20周年となる2017年に完全復活して新作をリリースすることは、早い段階からイメージしながら準備を重ねていたらしい。そして完成した今回のアルバムは、KREVA、MCU、LITTLEのソロ作品やMCUとLITTLEによるユニット「UL」とは全く趣きが異なる。個々のラップパートを経て、全員でサビを歌った瞬間に、何とも言えない昂揚感へ到達できるこのワクワクは、やはりKICK THE CAN CREWだからこそだ。3人のラップの絶妙な連携は、「SummerSpot」を筆頭にあらゆる曲で発揮されているので、じっくり味わって頂きたい。

 そして、言葉遊びやライミングの粋なセンスを全員が共有し合っているのも、今作の鋭い切れ味に繋がっている。紹介したいポイントは数えきれないほどあるが、分かりやすくオススメできるのは「なんでもないDays」の《遊びつくせ この美しい風土 喰らいつくせ 美味いシーフード》だ。心地よいライミングが盛り込まれているフレーズだが、《美しい風土》と《美味いシーフード》を大真面目に並べるラッパーはまずいないだろう。そして、こういうアクの強い面白さを踏まえながら全員が競い合うかのように個性的なフレーズを連発し、曲のテーマを鮮やかに描き切ることにも大成功している点に仰天する外ない。メンバー同士で自由な発想をエスカレートさせ合いながらスクラムを組み、目指すゴールへと到達するという技は、複数のMCがいるグループならではの醍醐味であり、そのスキルの高さという点で、KICK THE CAN CREWは恐るべき領域に達している。

 完全復活を告げる痛快な狼煙となった「千%」の圧倒的な爽快感。「また波を見てる」や「今もSing-along」などに脈打つ美しい抒情性。KICK THE CAN CREWの出発点となった「カンケリ」や「タカオニ」に続くシリーズであり、彼らの核にある永遠のスピリットが刻まれているのを感じる「タコアゲ」……などなど。魅力的な曲がたっぷりつまっている今作は、彼らのファンやヒップホップ愛好家はもちろん、刺激的な表現を求めているあらゆる人に聴いて欲しい1枚だ。センス抜群のサウンド、豊かな言語表現、柔軟な発想、強力なチームワークが一体となった時、音楽はこんなにも輝ける。そういう説得力に満ちたKICK THE CAN CREWは、やはりとんでもないグループだ。

【文:田中 大】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル KICK THE CAN CREW

リリース情報

KICK !

KICK !

発売日: 2017年08月30日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: スピードスターレコーズ

収録曲

1.全員集合
2.千%
3.今もSing-along
4.SummerSpot
5.なんでもないDays
6.完全チェンジTHEワールド
7.また戻っておいで
8.また波を見てる
9.I Hope You Miss Me a Little
10.タコアゲ

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