レビュー

BiSH | 2017.11.29

BiSH

 “楽器を持たないパンクバンド”こと6人組ガールズグループ、BiSHがメジャー通算2枚目となるアルバム『THE GUERRiLA BiSH』をリリースした。発売日の約1ヶ月前となる11月4日と5日には2日間限定で、全国のタワーレコードの店舗においてなんと299円で先行販売を行い、11月5日には、大阪の道頓堀に黒い海賊船に乗って現れ、アルバムのタイトル通りにゲリラライブを決行した。ほかにはないユニークな施策を実行し、ニュース化し、バズらせるといった“プロモーション”も込みで表現と捉えられるグループではあるが、彼女たちの最大の魅力は、それぞれの個性そのものにある。そんなの当たり前だと思う人もいるかもしれないが、それは違う。結成当時は“新生クソアイドル”と称し、糞尿まみれに見えるMVや「OTNK」と叫ぶ楽曲もあり、ダイエット企画やマラソン企画もあった。もちろん、いまでも刺激的で新しい映像やプロモーションを行ってはいるが、過激さよりも、彼女たちのアーティストとしての才能が存分に堪能できる内容になってきている。例えば、ニューアルバムのリード曲「My landscape」は美麗なストリングスが入った、壮大なスケール感のロックナンバーとなっており、ハスキーでエモーショナルなアイナ・ジ・エンドのボーカルをはじめ、メンバーのソロパートもしっかりと用意されている。MVは“飛行機の墓場”と呼ばれる、アメリカのロサンゼルス郊外モハーヴェ砂漠で撮影されており、メンバーの歌唱シーンとダンスパフォーマンスがメインで、今までのように奇をてらったところはない。狂気と空虚が交差する場面もあるが、正統派バンドの楽曲、映像となっているのだ。 

 また、アルバムでは、これまでも10曲以上の作詞を担当していたモモコグミカンパニーに加えて、メンバー全員が作詞を手がけている。モモコグミカンパニーが手がけた「SHARR」は全員がシャウトするラウドロックで、ストレスが溜まりまくったサラリーマンやOLの心の叫びが描かれている。彼女はさらに、ポップなミドルナンバー「JAM」やスカコア「BODiES」で生きる意味を探して自問自答。聴き手の日常にすっと入り込んで共感を呼ぶ歌詞を描いている。アユニ・Dによる歌謡メロディのスカコア「spare of despair」は“木偶の坊”や“風来坊”など、独特のワードが並び、忘れていたはずの過去の絶望が蘇ってくるダークファンタジー。リンリンは過去を振り返りつつ、現在をしっかりと見つめながら、未来への明るい眼差しを綴っており、セントチヒロ・チッチは他人と比べることなく、自分の人生を生きるべきだと、自身に言い聞かせると同時に、ステージ上からファンに向けたメッセージも投げかけている。アイナ・ジ・エンドによるメタルロック「ALLS」は、自分の中にある女性性と男性性が行き来している。平歌の部分は強く勇ましく、カッコの中の部分は乙女心が描かれるという構成で、そのあやふやな心模様にリアリティーを感じる。速いパッセージのロック「パール」に言葉を乗せたハシヤスメ・アツコは、寝てる時に見る“夢”と起きてる時に見る“夢”を重ねながら、まっすぐなメッセージを綴っている。<司会者みたいに上手く話せるわけはないけど>というフレーズには、ライブでMCを務める自身の素直な心情や葛藤も込められているよう。
 歌に歌詞に、それぞれが手加減なしのパワー全開で自らのクリエイティビティを発揮した本作を聴けば、ネットニュースの過激な見出しに溺れることがない一人一人のアーティスト性と人間性が浮かび上がってくる内容となっているのだ。

【取材・文:永堀アツオ】

tag一覧 BiSH 女性ボーカル

リリース情報

THE GUERRiLLA BiSH

THE GUERRiLLA BiSH

発売日: 2017年11月29日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: avex trax

収録曲

01.My landscape
02.SHARR
03.GiANT KiLLERS
04.SMACK baby SMACK
05.spare of despair
06.プロミスザスター
07.JAM
08.Here’s looking at you, kid.
09.ろっくんろおるのかみさま
10.BODiES
11.ALLS
12.パール
13.FOR HiM

スペシャル RSS

もっと見る

トップに戻る