レビュー

井上苑子 | 2017.12.06

 ミニアルバム『#17』でのメジャーデビューから約2年半。今年(2017年)12月11日にハタチの誕生日を迎えるSNS世代を代表するシンガーソングライターの井上苑子は、10代最後となる通算2枚目のフルアルバムに『JUKE BOX』というタイトルをつけた。
 ここには、NETFLIXオリジナルシリーズ「あいのり:Asian Journey」の主題歌として、LINE MUSICで1位を獲得した、いきものがかりの水野良樹提供曲「せかいでいちばん」をはじめ、ドラマ「こえ恋」のEDテーマ「ナツコイ」、映画「ReLIFE リライフ」の主題歌「メッセージ」など、サブスクを中心にヒットした6枚のシングルを収録したベストアルバムのような内容になっており、好きなときに、好きな曲を聴いてほしいという思いに加えて、ジュークボックス=19才の私を詰め込んだという意味もあるだろう。

 日本文学には原田宗典「十九、二十」や中上健次「十九歳の地図」という名作もあるが、十九歳とはどんな年齢なのか。ずいぶん前に過ぎ去ってしまったという方は、本作を聴けばそれが、大人と子供の間で宙ぶらりんな気持ちで過ごした、恋と青春の季節だったと思い起こすはずだし、彼女と同世代でみずみずしさの真っ只中にいる方は、きっと「私がいま、感じてる気持ちと似ている」と感じることができるはずだ。
 あなたが好きで、ずっとそばにいたいんだと無尽蔵の愛を切なく伝える「せかいでいちばん」。言葉にできない片思いを抱えながら、あなたと手をつないだ瞬間などを収めた「HeartBeat」。君と出会えたおかげで変われたと歌う「恋歌」。大好きだと告白する直前の心境を綴った「可愛くなってもいいですか」。明るいポップロックを基調にした本作の前半は「恋と青春」の“恋”、特に初恋のような淡いようで内実は色濃い恋愛模様が中心となっている。そして、槇原敬之「どんなときも。」のピアノ一本によるカバーを挟み、後半はこれから本格的に始まる人生のいろいろに思い悩む“青春”も浮かび上がってくる。そこにはもちろん恋も含まれているが、離れた君にテレパシーを送るロマンチックなラブソング「テレパシー」や失恋ソング「なみだ」にしても、自分の“好き”という感情をぶつけるだけではなく、相手を思いやる姿勢が見え、鮭おにぎりをテーマにしたカントリーポップ「SHAKE」では離れて暮らす親への感謝を伝え、ピアノバラード「ねぼう」では迷い、葛藤しながらも自分に喝を入れ、バンジョーが心を弾ませる応援ソング「エール」では弱音を吐かない友達にただそばにいることで励まそうとする優しさを感じる。
 しかし、最も青春を感じるのは、井上苑子の笑顔と切なさが同居した歌声が引き連れてくる、アルバム全体を貫く「夏」の空気感だ。「ナツコイ」や「君がいればOK!~サマサマキュンキュン大作戦~」を筆頭に、青春には夏が似合う。眩しい日差しと、うっとおしい汗や、ふいに流れる涙。そして、寝付けずに悶々としてしまうようなあてどなさや、未来への焦点が絞りきれないあやふやさ。19歳という年齢はきっと「人生の夏」でもあり、誰の人生にも一度しかないからこそ、やけに眩しく映るのだろう。

【文:永堀 アツオ】

リリース情報

JUKE BOX

JUKE BOX

発売日: 2017年12月06日

価格: ¥ 2,963(本体)+税

レーベル: ユニバーサルミュージック

収録曲

01.せかいでいちばん
02.ナツコイ
03.HeartBeat
04.恋歌
05.スタート!
06.可愛くなってもいいですか
07.どんなときも。
08.メッセージ
09.テレパシー
10.SHAKE
11.ねぼう
12.エール
13.なみだ
14.君がいればOK!~サマサマキュンキュン大作戦~

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