レビュー

SiM | 2017.12.06

 湘南発の4人組レゲエパンクバンド、SiMの両A面7thシングル「A/The Sound Of Breath」が実に素晴しい。一度聴いただけでもわかるキャッチーさがありつつ、何度聴いてもハッとする場面があり、聴き終えた後も頭の中に印象的なフレーズや歌詞がずっと残り続ける。非常に計算され尽くされた緻密なアレンジは、すべて聴き手の脳裏に刻まれる極上のフックとして機能しているから、弛緩する余地を与えない。経験を積み重ねることで、より高く、さらに遠くへ、楽曲を飛ばす術を体得している。既にどちらも私的フェイバリット・ソングに挙げたくなる高品質の楽曲だ。

 しかも、今作は大型タイアップ付きで、累計出荷本数950万本という破格の数字を誇るゲーム『龍が如く』シリーズ最新作のために書き下ろしたもの。『龍が如く 極2』のテーマ曲に「A」、エンディング曲に「The Sound Of Breath」が起用され、「SiM×ゲーム」のガチ・コラボ作(ジャケのアートワークでも見事にコラボ!)となった。日頃からMAH(Vo)はゲーム好きを公言し、曲のインスピレーションにもなっている、と聞いたことがある。この『龍が如く』シリーズはMAHも大ファンらしく、念願のタイアップと言っていいだろう。

 まず「A」は冒頭から"ABRACADABRA"という、日本でも馴染み深い呪文を用いた歌詞に鼓膜を鷲掴みにされる。どこかエキゾチックちっくな雰囲気で幕開けだ。それからヘヴィなリフが振り下ろされ、重厚なブレイクダウンもライブの絵が瞬時に浮かんでくる。また、ほぼ英語詞を貫く中でサビに使用した日本語詞がとにかくインパクト大。"命の 祈りを(中略)痛みも 怒りも"のフレーズが立体的に浮き上がり、洋楽テイスト色濃い音色を一瞬で切り裂き、誠実なるメッセージをこちらに投げかけてくるよう。もっとも伝えたいことを最小限に表現した手法がこの曲では最大限に活きている。結果的にSiMらしいダークなラウド感とライトなポップ性の両方が際立っている。  対して、「The Sound Of Breath」はミディアムテンポのバラード曲。以前もこうした曲調はあったけれど、何かが違う。英語と日本語の割合は半々ぐらいと思われるが、「A」同様、この曲でも日本語詞が耳にスッと入り、柔和なメロディラインを歌い上げるMAHの歌声は絶品。後半のウォーウォーのコーラスの裏で密かに鳴り響く和的な電子音もいい隠し味になっている。

 2曲ともタイプの異なる楽曲ではあるが、「命」、「人生」、「生き抜く」、「生きる理由」というワードが胸に引っ掛かった。今年はSiMも多大な影響を受けたであろう、クリス・コーネル(SOUNDGARDEN)、チェスター・ベニントン(LINKIN PARK)とラウドシーンを象徴する2人のボーカリストが自殺という結末で自らの人生に幕を閉じた。その闇を受けて、生き抜くための「光」を自身の音楽に込めたいという意志が強く働いたのではないか。今作のラウドとバラードという対照的な2曲から、これまでになく明るい光(=ポピュラリティ)を僕は感じ取った。

【文:荒金 良介】

リリース情報

A / The Sound Of Breath

A / The Sound Of Breath

発売日: 2017年12月06日

価格: ¥ 1,100(本体)+税

レーベル: ユニバーサル ミュージック

収録曲

1. A
2. The Sound Of Breath

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