レビュー

THURSDAY’S YOUTH | 2017.12.01

 昨年末に休止期間に入ったSuck a Stew Dryがバンド名を改め、THURSDAY’S YOUTHとして再び動きだしたのが今年の3月。そして、6月に1st EP『さよなら、はなやぐロックスター』をリリースした直後に東名阪を巡ったツアーの内、僕は東京キネマ倶楽部の公演を観たのだが、新曲がたくさん披露された上、どれも圧倒的にグッと胸に深く迫るものばかりだったのをよく覚えている。終演後にメンバーたちと舞台裏で会った際、「新曲を早くリリースしたくて堪らないんじゃないですか?」と訊いたところ、「そうなんですよ!」と実感のこもった声で全員が口を揃えて言っていた。そんな曲たちが、ついに1stフルアルバム『東京、這う廊』に収録されて世に出る。とても喜ばしいことだ。

 今作に関してまず特筆すべきなのは、サウンドの生々しさだ。4人編成によるギター、ベース、ドラムで基本的に構築されているアンサンブルは比較的シンプル。しかし、ものすごい熱量、豊かな質感、奥行きの深い空間を伴って迫ってくる。例えば1曲目「Drowsy」は、シューゲイザーにも通ずる音の壁と艶めかしいウネりを渦巻かせながら響き渡る。ダブ的な残響感とサイケデリックな風味が心地よい「雨、雨、雨、」。ファンキーな躍動感を帯びつつも、何とも言えずやるせないムードを漂わせている「這う廊」。アイリッシュフォーク的な牧歌性も香るUKギターロックテイストの「THURSDAY’S NIGHT」……などなど、切れ味の良いサウンドの曲が、たくさん並んでいる。

 そして、作品全体に脈打っているのを感じるのは、全曲の歌詞を書いている篠山浩生(Vo・G) の人生観だ(※「THURSDAY’S NIGHT」の歌詞は、ギターの菊池玄と共作)。どこに向かっているのかはっきりとせず、常に漠然とした何かに包まれているような感覚のまま進んでいく人生――無邪気に希望を語れるほど満ち足りてもおらず、だからと言ってあっさりと終止符を打つこともできないまま生きている人間の営みが、あらゆる曲で描かれている。そんな人間模様を俯瞰で捉えている「東京」は、とても印象的だ。いつかはあっさりと消えてしまうという皮肉な宿命を背負って生きているたくさんの人々の血の通った身体と心が行き交う場所、東京の風景を鮮やかに浮き彫りにしている。

 THURSDAY’S YOUTHの曲は、いわゆる「ポジティブな応援ソング」ではない。非情な現実を真っ直ぐに見つめて描いているという点で、残酷なトーンを帯びていると言ってもいいのかもしれない。しかし、耳を傾けていると、不思議と心が安らぐ。それはなぜなのか? はっきりした救いの形なんて見つけられるはずもない厄介な業=人生を背負ってしまっている我々の孤独に自然と寄り添ってくれるからなのだと思う。篠山はインタビューで「“聴いてくれる人を救おう”とかは思っていないです」ということを度々名言しているし、その通りなのだろう。しかし、彼が赤裸々に吐露している心情、描写している人間像は、同じように生きている我々と、さり気なく重なり合ってくれる。そんな形による温もりを感じたい人に、ぜひこのアルバムを聴いてほしい。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

東京、這う廊

東京、這う廊

発売日: 2017年11月29日

価格: ¥ 2,500(本体)+税

レーベル: ラストラム・ミュージックエンタテインメント

収録曲

1 Drowsy
2 雨、雨、雨、
3 明日はきっと大丈夫
4 東京
5 這う廊
6 #ゴミ箱にて
7 燃やせるゴミ
8 かくれんぼ
9 はなやぐロックスター
10 Mob
11 水曜日の出来事
12 #Gone
13 THURSDAY’S NIGHT
14 #花と命
15 さよなら(album ver.)

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