レビュー

back number | 2017.12.19

 back numberのニューシングル「瞬き」は、昨年12月リリースのベストアルバム『アンコール』以来、約1年ぶりの作品ということになる。ベスト盤制作がバンドにとってひとつの大きな区切りだったとすると、この新作は彼らの新たなる始まりを告げる作品と位置付けられるのではないだろうか。さらに先へ、という彼らの気合いや気迫までもが詰まっていると感じたからだ。

 表題曲「瞬き」は映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の主題歌になっている。これまでにも彼らは数多くの主題歌を作ってきたが、今回は実話に基づいた感動的な映画とのことで、ハードルはさらに高くなっている。が、彼らは主題歌としても、バンドの曲としても素晴らしい作品を作り上げた。作詞・作曲は清水依与吏、編曲はback numberと小林武史。プロデュースも小林武史。彼らと小林武史とのコラボレーションはこれまでも「ヒロイン」「手紙」「クリスマスソング」「ハッピーエンド」など、数多くの作品で実現していて、万全の体制で制作されている。

 冒頭の数秒間で早くもこの曲の“物事の本質に迫っていく本気の姿勢”が全開になっていく。清水依与吏のブレス、そしてアカペラの歌声で始まっていくのだが、出だしのフレーズがすごい。“幸せとは”である。幸せになることこそが人生の最大の目的だと考えている人はたくさんいるだろう。そんな人間の根源的なテーマと真正面から向き合って作られたのがこの曲なのだ。ここまで数多くの名曲を作り上げて来たという自信と実績があるからこそ、ここまで勇気を持って踏み込むことが出来たのではないだろうか。目から鱗が落ちるような深い歌詞、胸が熱くなるような印象的なフレーズが満載。ファルセットを駆使した清水のせつない歌声が聴き手の胸の琴線を何度も揺さぶっていく。リスナーそれぞれが“では自分の人生はどうなのだろうか?"と問いかけたくなるようなリアルさ、真っ直ぐさもこの曲を特別なものにしている。

 バンドの演奏もそうした歌詞と呼応するように人間味にあふれている。喜怒哀楽、様々な感情が凝縮されたような存在感のある演奏なのだ。アレンジも清水の歌詞と歌声を最大限活かすべく、広がりのある音作りがなされている。ストリングス、アコギ、キーボード、鐘の音などを効果的に使うことによって、立体的でなおかつ、包容力のある世界が構築されている。せつなさの極地から人生の深遠が見えてくる感動的なラブソングなんて、そうはない。

 back numberのどのシングルにも当てはまることなのだが、表題曲以外のナンバーも充実している。彼らにとってカップリングというのは表看板を背負っていないからこそ、自分たちのやりたいことをリラックスして、のびのびとやれる場所でもあるのだろう。“夢"という名前の妄想がコミカルに展開されていく「ゆめなのであれば」、躍動感あふれるリズムとリフを駆使したクールなサウンドが見事な「ARTIST」もライブの人気曲に育っていきそうだ。植物に例えるならば、花が咲き、実を結んだ次の瞬間には、また新たな種がたくさん撒かれたというところだろうか。目を開けても、閉じても、瞬きし終わっても、いつもそばにいてほしい歌。そんな音楽を作り続けるバンドとしての地位をback numberはさらに確固たるものにしつつある。

【文:長谷川 誠】

リリース情報

瞬き

瞬き

発売日: 2017年12月20日

価格: ¥ 1,000(本体)+税

レーベル: ユニバーサルミュージック

収録曲

1.瞬き
2.ゆめなのであれば
3.ARTIST
4.瞬き(instrumental)
5.ゆめなのであれば(instrumental)
6.ARTIST(instrumental)

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