レビュー
THE BACK HORN | 2018.03.06
THE BACK HORNの結成20周年企画第2弾は、7曲入りミニアルバム『情景泥棒』だ。ミニアルバムという形態をとるのはインディーズ時代の初作『何処へ行く』(1999/09/22)以来。いつものようにフル・アルバムを作ることもできただろうに、敢えて7曲に絞って初心に還ってみたのだろうか。そんなセンチメンタリズムも彼ららしいが、単なる原点回帰などでは決してない。それぞれが明快な色を持つ7曲が見事なテンポでドラマチックに展開していくのは、20年間の間に培った響きがあるからだ。
中心となるのは5曲目「情景泥棒」と、それに続く「情景泥棒~時空オデッセイ~」。前者は松田晋二(D)が作詞し菅波栄純(G)が作曲、後者はこの歌詞に触発されて菅波が詩・曲を書いた。情景というかたちのないものを盗むとは?と哲学的なものも感じさせる幻想的な曲で、そのイメージを増幅するような間奏が中盤に入るのも面白い。サイケデリックな音像の中でもがくように歌う山田将司(Vo)がめに浮かぶようだ。ちなみに、ジャケットのイラストは松田によるもの。スリーブにイラストの全貌も印刷され、CD盤にもモノクロでプリントされている。
この2曲に至るまでの前半は、彼ららしい歯切れの良さが小気味いい。力強いコーラスで幕を開ける「Running Away」は、菅波の詞曲で、まだ不完全な自分たちの現在から痛みも挫折も飲み込んで歩き出そうと背中を押してくる。今すぐにでもライブで盛り上がりたくなる曲がグイッと胸ぐらを掴む。畳み掛けるように続く「儚き獣たち」は、菅波の書く起伏に富んだメロディとストレートなバンド・サウンドに乗せて、見えないものを信じたいと歌う山田の歌詞が沁みる、THE BACK HORNらしい曲。これもライブでマストな曲となるに違いない。3曲目は再び菅波の詞曲で軽快な曲調と柔らかさを含んだ山田のヴォーカルが、心の中に溜まっていた靄を払ってくれるよう。
打ち込みを使ったイントロが新鮮な「がんじがらめ」は、ダンサブルなビートと虚無感漂う歌が渾然一体となって、様々な思いが絡み合って二進も三進もいかなくなる、まさにがんじがらめ。こうした曲では岡峰光舟のベースと松田晋二のドラムが絶妙の味を出してくる。そして「情景泥棒」シリーズに続き最後を締めるのは、岡峰が詞曲を手がけた「光の螺旋」。THE BACK HORNらしい熱のあるバンド・サウンドから、プログレッシヴ・ROCKのような深みのある展開で曲を広げていく。岡峰が見てきTHE BACK HORNというドラマが描かれているようで、光の螺旋に浮かぶ唄、という歌詞に胸が熱くなる。この曲だけでなくどの曲にも彼ら自身の20年、ここから始まる未来が描き込まれているのは言うまでもない。
初回限定盤には昨年10月21日、雨の日比谷野音で行われた「KYO-MEIワンマンライブ~第三回夕焼け目撃者~」から12曲のライブ映像が収録される。このシングルを携えて行う3月後半の「KYO-MEIワンマンライブ~情景泥棒~」東京・大阪編、4月に全国6カ所で行われる「KYO-MEI対バンツアー~情景泥棒~」は見逃せない。
【文:今井 智子】
リリース情報
情景泥棒
発売日: 2018年03月07日
価格: ¥ 2,000(本体)+税
レーベル: ビクターエンタテインメント
収録曲
01. Running Away
02. 儚き獣たち
03. 閃光
04. がんじがらめ
05. 情景泥棒
06. 情景泥棒~時空オデッセイ~
07. 光の螺旋