たとえばYMOとかザ・ブルーハーツなど「このバンドがいなければ、その後の音楽シーンはまったく違ったものになっただろう」というほどの強い影響力を及ぼしているバンドが存在するが、サカナクションが“そういうバンド”の一つであることはまちがない。ダンスミュージックとロックを融合した音楽性、70年代のフォークにも通じる情緒的な心情を映し出す歌、最新のテクノロジーを駆使したステージング、“チーム・サカナクション”と称し、バンドを支えているスタッフ、クリエイター陣を積極的にアナウンスする姿勢。デビュー10周年を迎えた“僕たち、私たち”サカナクションが示してきたスタイルとスタンスが、テン年代のバンドシーンに与えた影響は計り知れない。雨のパレード、WONK、PAELLASといった先鋭性とポップネスを共存させたバンドが活躍している状況も、サカナクションのブレイクが大いに関係にしているのではないだろうか。

　本作『魚図鑑』はサカナクションにとって初のベストアルバムである。公式HPには「メジャーデビュー10周年を迎え、新たなフェイズにバンドが向かうためにこれまでの作品を総括する意味合いでリリースします」と記してある。それは単に10年間の軌跡をまとめただけではなく、すべての楽曲に体系的に捉え、さまざまな角度、深度からサカナクションの音楽世界を解析した、まさに“図鑑”と呼ぶにふさわしい内容になっている。バンドのフロントマン、山口一郎(V&G)はデビュー当初から確固たるビジョンを持ち、それを実現すべく活動を続けてきた。筆者が山口に初めて取材したのはジャスト10年前の2008年だが、当時から彼は「アンダーグランドとオーバーグランドをつなげたい」からはじまり、音楽のスタイル、ライブの演出に至るまで、詳細なイメージを語ることができた。そのときは「デビューしたばかりなのに、目標とするビジョンが大きすぎないか?」と思ったし、本人に直接言ったこともあるが(あのときは失礼しました)、ご存知の通りサカナクションは、そのビジョンをことごとく現実にしてきたのだ。最初の集大成と言うべき“図鑑”を丁寧に紐解いていけば、5人がどうやって自らの目標を実現してきたか、そのプロセスが明確にわかるはずだ。

　既に発表されている3作品連続リリースの計画にそって、このベストアルバム『魚図鑑』をリリースした後も、第二弾として、6.1chサラウンドライブ「SAKANAQUARIUM2017 10th ANNIVERSARY Arena Session 6.1ch Sound Around」をシューティングしたライブ映像作品Blu-ray＆DVD、さらに前作『sakanaction』（2013年3月）以来じつに約5年ぶりとなるオリジナル・ニューアルバムのリリースが控えている。

　本作『魚図鑑』をじっくり聴き込み、これまでのキャリアを追体験しながら、この後のアクションを心待ちにしたいと思う。

【文：森朋之】