レビュー
あいみょん | 2018.04.24
昨年9月にリリースした1stアルバム『青春のエキサイトメント』がロングヒットを続ける中、待望のニューシングル「満月の夜なら」を完成させたあいみょん。
今作のリリースが発表された段階から公開されていた表題曲の“very short movie”――キャッチーなサビ部分と、これまでも彼女の作品を独特のアートワークで表現してきた、とんだ林蘭のポップな映像が作り上げた20秒のティザー映像――の段階ですでに心を奪われた人も多いと思うが、フルサイズになったこの曲の中毒性は破格。「愛を伝えたいだとか」に通じるようなグルーヴ感も、「君はロックを聴かない」のようなストレートなJ-POP感も併せ持っているけど、それぞれの魅力を大幅に塗り替えたような新鮮さに満ちている。歌とリズムだけの冒頭部分や、同じAメロでも2番はラップ的に言葉を詰め込んでいてメロディーも違うなど、サウンド的に耳を惹きつけられるところも多い。繰り返されるサビの存在感があるからこそ自由に、スピード感を損なわずに、曲が展開していくのも痛快だ。
歌詞に目を向けると、≪君のアイスクリームが溶けた≫≪ぬるくなったバニラ≫≪ピンクの頬≫≪スパンコールのように弾けて≫など、どのセクションにも色彩や質感が豊富で聴く人のイメージを刺激する言葉があふれている。直接的には言ってないのに、とんでもなく官能的な世界観だ。
「満月の夜なら」というタイトルも、映像制作チームThe16.が手がけたミュージックビデオも、最終的な“何か”を決めつけたりはしていない。だから、受け取った人の中で想像とか妄想が走り出す瞬間の興奮を存分に味わうことができる。この感覚はひょっとしたら、あいみょんが曲を生み出す時に感じていた衝動みたいなところと繋がっているのでは……?そんな風にあれもこれもと連鎖して、勝手に妄想が膨らむような仕掛けがたまらない1曲だ。
カップリングは、言いたいのに言えない本音を抱えた女の子のもどかしさを歌った「わかってない」。男性目線の「満月の夜なら」と続けて聴いていると、これはあの曲の中の女の子が主人公なのでは……? と勘ぐってしまえるのも面白い。アコースティックギターの爽やかな音色と、リヴァーブが効いたエレキギターやコーラスが醸し出す絶妙なモヤッと感。女の子の中にある二面性とか言い切れない歯がゆさみたいなものが、音の一つひとつからも伝わって来る。2曲通して聴くことで、それぞれの主人公の人物像や2人の関係性まで浮かび上がってくるようなシングルだ。
【文:山田邦子】
リリース情報
満月の夜なら
発売日: 2018年04月25日
価格: ¥ 999(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン
収録曲
1.満月の夜なら
2.わかってない
3.満月の夜なら (Instrumental)