レビュー

Suchmos | 2018.06.20

 Suchmosはロック色を強めた2ndアルバム『THE KIDS』制作後、オアシスのドキュメンタリー映画『オアシス:スーパーソニック』を鑑賞。メンバー全員がそのフィルムに刻まれていた、オアシスが1996年に25万人を動員した伝説のネブワース公演に大きな衝撃を受けたという。おそらくこのミニアルバム『THE ASHTRAY』にはその影響もあるのだろう。各楽曲ともにシンガロングなコーラスを導入し、狙うステージはより大きな舞台に広がった印象だ。

 先行シングルとしてリリースされていた「808」はファンキーなベースラインが唸るディスコビートが印象的なダンスチューン。そして「VOLT-AGE」は『2018 NHKサッカー』テーマ曲起用も踏まえたであろう、ビッグなスタジアムロックソング。チャントと疾走感を両立させる緩急をつけたソングライティングと、攻撃的な雰囲気を持ちながらも平和と自由を賛美するリリックは実にSuchmos的だ。

 そんなアップリフティングな2曲に続くのが、本作において例外的な楽曲とも言える「FRUITS」。マディ・ウォーターズら伝説的なブルーズ・ミュージシャンに楽曲提供をしていたソングライターであるウィリー・ディクソンの言葉「The blues are the roots,and the other musics are the fruits.」へのオマージュと思われるフレーズで始まるアーバンソウルで、唯一スタジアム感の薄い楽曲ではある。しかし、終盤の≪You Make Me Feel, My Love From You/You Make Me Kind, Looking For Me≫というラインからは、オーディエンスとのコール&レスポンスが生まれることも想像に難くない。

 アコースティックギターと柔らかなキーボードがリラクシンな「YOU’VE GOT THE WORLD」では、彼らなりの横ノリのグルーヴにオアシスを思わせるスタジアムロックアンセム的なコーラスを融合してみせる。

 そして、しなやかなグルーヴに初期Suchmosの香りを漂わせつつ、ムーディーかつセクシーなリリックが新鮮なラブソング「FUNNY GOLD」に続く「ONE DAY IN AVENUE」が本作最大のピークだろう。シンプルなピアノリフに導かれ歌われるのは、これまでのSuchmosの楽曲の中でも特に直接的なステートメントであり、ストレートなアンチテーゼである。楽曲は次第に音を重ね、バンド史上最大規模のシンガロングなコーラスに突入する。YONCEのボーカルにはリアム・ギャラガーの影がちらつき、バンドの演奏にはビートルズ「A Day In The Life」やオアシス「Champagne Supernova」が見え隠れする。モンキービジネスが跋扈するこの世界におけるSuchmosの決意とオーディエンスへの呼びかけが感じられる、ストレートな反骨と連帯のロックアンセムだ。こうして高まった熱をゆっくりと冷ますように、タイトル通りエンドロール的なアウトロダクション「ENDROLL」で本作は幕を閉じる。

 以上、全7曲36分。キャラクターの立った楽曲と、バンドのこれまでとこれからを感じさせるアルバム構成で、聴きごたえ十分の傑作だ。

 ただ、惜しむらくは本作が“ミニアルバム”であることだろうか。カニエ・ウェスト「ye」など7曲入り20分台の傑作アルバムが連発された2018年6月のリスナー感覚からすれば、本作はアルバムとしてプレゼンテーションし直すべきではないだろうか。ほぼ言い方の問題ではあるが、それが“気分”に大きく影響するのは間違いない。ぜひアルバムだと思って聴いてみてほしい。

【文:照沼健太】

リリース情報

THE ASHTRAY

THE ASHTRAY

発売日: 2018年06月20日

価格: ¥ 2,000(本体)+税

レーベル: F.C.L.S.

収録曲

1. 808
2. VOLT-AGE
3. FRUITS
4. YOU’VE GOT THE WORLD
5. FUNNY GOLD
6. ONE DAY IN AVENUE
7. ENDROLL

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