レビュー
indigo la End | 2018.07.18
前作『Crying End Roll』から約1年ぶりとなるメジャー4thアルバム。常に一貫して“indigo la Endは普通の歌ものバンドではない”とコメントしてきた川谷絵音(Vo&Gt)だが、2017年12月に配信限定でリリースされた「冬夜のマジック」を含む本作は、一瞬で“indigo la Endだ”とわかる。独創性と普遍的なポップネスを併せ持ったソングライティング、細部にまで神経が行き届いたアレンジメント、優れた技術を持ったメンバーたちによる質の高いアンサンブルを含め、“普通ではない歌ものバンド”としての存在感が、これまで以上のクオリティで実現されている。要はどこからどう聴いても最高傑作なのだ、このアルバムは。
その充実ぶりは1曲目の「蒼糸」を聴けばすぐにわかってもらえるはずだ。この歌で歌われているのは、かつての恋愛に対する深くて刹ない思いだ。甘美にも似た後悔のなかでこの曲の主人公は、メランコリックな感情へと沈んでいく。たとえば≪蒼き後悔は期待が飲んで 後味だけが知る≫という美しく、文学的な歌詞は、川谷以外には生み出せないだろう。
感傷的な気分を増幅させるようなメロディライン、繊細な震えと狂気にも似た響きを同時に感じさせるストリングも、歌の世界観をしっかりと引き立てている。
濃密にしてしなやかなバンドグルーヴと重厚なボーカル/ハーモニーを軸にした「ハルの言う通り」、ひとつ一つの音を丁寧に紡いだ繊細なアンサンブルが(なぜか)エレクトロ的なグルーヴへとつながる「Unpublished manuscript」など、穏やかな洗練をたたえた楽曲が並ぶ本作のもうひとつの聴きどころは、アルバムの最後を飾る「1988」。
川谷が生まれた年をタイトルに冠したこの曲にはおそらく、彼自身の音楽観とミュージシャンとしてのスタンスが投影されている。直接的なことには何も言及しておらず、表現はきわめて抽象的で詩的だが、≪言葉で小さな命をつぐむ≫という最後のリフレインには驚くほど生々しい情感が込められていて、どうしても心揺さぶられてしまう。
アルバムタイトルの「PULSATE」には“脈打つ、鼓動する”という意味が込められている。憂鬱、後悔といった思いを常に抱えながら、単なる自己憐憫に陥ることなく、それを優れたポップミュージックへと昇華させるindigo la End。そこにはまちがいなく川谷自身、そしてメンバーそれぞれの“脈”や“鼓動”がリアルに流れているはず。その生々しい感情に触れる瞬間こそが、このアルバムの素晴らしさを実感できるときなのだと思う。
【文:森 朋之】
リリース情報
PULSATE
発売日: 2018年07月18日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン
収録曲
01.蒼糸
02.煙恋
03.ハルの言う通り
04.Play Back End Roll
05.星になった心臓
06.雫に恋して (Remix by HVNS)
07.冬夜のマジック
08.Unpublished manuscript
09.魅せ者
10.プレイバック (Remix by Metome)
11.1988