レビュー
あいみょん | 2018.08.03
早いもので、あいみょんのシングルも5枚目となる。今作のタイトルは「マリーゴールド」。マリーゴールドは橙を黄金色に輝かせたような鮮やかな色が特徴の花で、最近ではピクサーの映画「リメンバーミー」で死者と生者の世界をつなぐシンボルとしても登場していた。
これまでも彼女の楽曲のアートワークを手がけてきたとんだ林蘭によるジャケット写真は、そのマリーゴールドの鉢から伸びる男女の腕。一見すると奇抜な印象だが、絡ませた指先にはセクシーなんだけど清潔感があり、見れば見るほど、そして曲を聴けば聴くほど、この歌に出てくる2人の掴みきれない距離感や関係性が表現されているなあと感じる。一方上海で撮影されたというMVは、水曜日のカンパネラの作品や米津玄師の「Lemon」などを手がけてきた山田智和監督によるもの。ノスタルジックなムードを漂わせた景色の中で、マリーゴールドの花びらのような色を効果的に使いながら歌い、ペニースケートボードで雨の降る街を滑っていくというもの。”彼女”を愛しく思う”誰か”の記憶をフィルムに焼き付けたような映像作品だ。
そんな記憶という時間の小箱を開けた瞬間のような、浮遊感漂うイントロから始まるこの曲。2人はどんな風に思い合ってきたのか、どんな距離にいるのか、そんな野暮なことは描写しない。《麦わらの帽子の君が 揺れたマリーゴールドに似てる》、そんな風に感じた主人公がいるだけでこの曲は成立しているのだと思う。想いや思い出はその人だけのものでしかないように、それぞれの胸の奥にある夏の日の恋を想起したり、今そばにある大切な人の存在と重ねたりしながら味わえる曲。いつまでも身を委ねていたいと思わされるようなメロディーと、少しだけ遠くを見つめているかのようなあいみょんのボーカルが絶妙にせつないラブソングだ。ちょっと懐かしさを感じさせるツインギターのハモり、イントロとは逆回転のようにも聴こえるアウトロなどにもぜひ注目しながら聴いてみてほしい。
カップリングは、女の子ならきっと頷ける“あなたのためを思ってしたアレコレ”が、数え歌のようなメロディーで繰り返される「あなたのために」。あいみょんらしい独白で終わるこの曲は、槇原敬之との仕事などでもおなじみのトオミヨウがサウンドプロデュースとアレンジを手掛けているということで、可愛さの中にもひと癖ある音使いが不思議な後味を残すナンバーだ。
今年の夏は『MONSTER baSH』や『SUMMER SONIC』などの大型フェスやイベントへの出演が続々と決定しているあいみょん。地上波の歌番組でもしっかりと爪痕を残してきた彼女だが、ライブのステージから放たれる強烈な存在感はやはり別物だ。この夏、新曲「マリーゴールド」が彼女のあらたな代表曲となって、たくさんの人の胸に届いていくと確信している。
【文:山田邦子】
リリース情報
マリーゴールド
発売日: 2018年07月18日
価格: ¥ 1,000(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージックジャパン
収録曲
1.マリーゴールド
2.あなたのために
3.マリーゴールド (Instrumental)