レビュー

KICK THE CAN CREW | 2018.08.29

 KICK THE CAN CREWにとって約15年ぶりなのだというシングル「住所feat. 岡村靖幸」。
岡村靖幸をボーカリストに迎えて、蔦谷好位置 (agehasprings)とKREVAがサウンドプロデュース――という豪華極まりないことが実現しているタイトル曲は、一堂に会したスーパーヒーローたちの必殺技が怒涛の勢いで連発されるような眩しい仕上がりとなっている。ウィットに富みまくった表現の数々によって、前代未聞のオリジナリティに満ちたラブソングと化しているのが、何と言っても注目させられるポイントだ。

 粋なライミングを発揮するKREVA、MCU、LITTLEのラップが醸し出す強烈なワクワクの狭間で飛び出す、《そうさ住所 一緒のとこにしよう》という岡村の歌は、一度聴いたら決して忘れられない。“住所”とは、公的な書類に記入することを必ず求められる項目。つまり、無味乾燥の代表格とも言うべきものだが、ロマンチックの対極の性質を帯びているからこそ、この曲にかけがえのないきらめきを授けている。初めて聴いた時は“住所!?”と、思わずツッコミを入れて笑ってしまうかもしれないが、愛を育むために避けては通れない生活感も見事に浮き彫りにしているフレーズであることを、多くのリスナーが発見すると思う。何気ないに表現よって人間の営みの機微を鮮やかに捉えるのが、親しみやすさと深みを両立させるポップスの本質ではないだろうか。このコラボレーションは、まさにそれを実現している。

 そして、今作のカップリング「Keep It Up」は、KICK THE CAN CREWの3人のラップが、とにかく気持ち良くて堪らない。現在のJ-POPシーンで実は結構珍しい存在となっている3MCスタイルだからこそ生み出せるドラマチックさを構築している。洒落っ気の利いた各々のラップがスピード感たっぷりに駆け抜けて、フックに差し掛かると一体感に満ちた歌声がエモーショナルに響き渡る――という、こういうメリハリ、スリル、起伏に富んだ展開は、ソロラッパーの曲だとなかなか味わうことができない。長年に亘って活動してきたグループならではの豊かなコンビネーションを確立しているKICK THE CAN CREWのキャッチーな凄味は、普段、ヒップホップを聴かない層も虜にし得ると思う。

 昨年に完全復活してアルバムをリリース。全国ツアーも行ったKICK THE CAN CREWが、今年に入ってからも精力的な活動を繰り広げているのが、本当に嬉しい。素晴らしいコラボレーションを経て、彼らはまだまだ何か刺激的な何かを我々に届けてくれるのだろう。今後の動きからも決して目を離すことができない。

【文:田中 大】

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リリース情報

住所 feat. 岡村靖幸

住所 feat. 岡村靖幸

発売日: 2018年08月29日

価格: ¥ 1,000(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

01.住所 feat. 岡村靖幸
02.Keep It Up
03.住所 feat. 岡村靖幸 (Inst.)
04.Keep It Up (Inst.)

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