レビュー
DAOKO | 2018.12.10
正直、ここまで“踏み越えた”アルバムになるとは予想していなかった。DAOKOのおよそ11か月振りのサード・アルバム『私的旅行』。まず前作『THANK YOU BLUE』とはクリエイターの顔ぶれがガラリと変わった。しかも小林武史、水野良樹(いきものがかり)、中田ヤスタカ、中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES)などメジャーシーンのビッグネームと、きくお、羽生まゐご、神山羊ら動画サイト出身系のフレッシュなアーティストとが共存している。DAOKOはその中心に立つアイコンであり、すべてを繋ぐ触媒だ。いちラッパーにも新世代エレクトロ・ポップの旗手にもとどまらず、広く深いJ-POPの中で勝負する決意のアルバム、それが『私的旅行』と言ってもいい。
注目曲をいくつかピックアップする。小林武史とタッグを組んだ「終わらない世界で」は、任天堂/CygamesアクションRPGアプリ「ドラガリアロスト」主題歌として配信リリース済み。いかにも小林武史らしいポップなメロディ、ストリングスやグロッケンを加えたソウル・ポップ風のサウンドと、ウィスパーボイスの組み合わせに新しい世界が見える。水野良樹による「サニーボーイ・レイニーガール」は、とことんハッピーに振り切った夏のデートソングで、ここまで純粋に恋の喜びを描くリリックはDAOKO史上初の快挙。中田ヤスタカの「ぼくらのネットワーク」は期待通りの高感度テクノポップで、これまでにない歌詞のポジティブ度の高さがまぶしい。中野雅之作の「NICE TRIP」は、中間部に歌のようなポエトリー・リーディングのようなパートを含む、先鋭的なビートの解釈を含みつつふんわりと心地よいダンスミュージックに仕上がっている。
新世代クリエイターたちの作品の中では、「24h feat.神山羊」が素晴らしい。生音とエレクトロとの絶妙なブレンド、クールでファンキーなリズム、恋人同士を演じるDAOKOと神山羊との掛け合いボーカルは、そこらへんの青春ドラマよりもみずみずしく感動的。きくおが参加した「種も仕掛けもある魔法」の映画のサントラのようにイメージが広がる音作りは秀逸で、羽生まゐごの「蝶々になって」に込められた不思議な無国籍感覚、小島英也(ORESAMA)が作曲に参加した「オイデオイデ」の、ネジのはずれたエレクトロ・ファンクにと皮肉めいた歌詞の中には、尖ったラッパーDAOKOの本性が垣間見えてニヤリとする。
つまりDAOKOの持つ多面性を大胆に切り取って全曲に散りばめた、『私的旅行』は彼女の心と音楽を巡る10曲の旅というわけだ。おまけにあの大ヒット「打上花火」のDAOKOソロ・バージョンも収められるのだから言うことは無い。DAOKOの世界は膨張する宇宙のように広がり続ける。本物のスターを手にした彼女はもはや無敵だ。
【文:宮本英夫】
リリース情報
私的旅行
発売日: 2018年12月12日
価格: ¥ 2,800(本体)+税
レーベル: TOY’S FACTORY
収録曲
01.終わらない世界で
02.ぼくらのネットワーク【DAOKO×中田ヤスタカ】
03.オイデオイデ
04.24h(feat.神山羊)
05.種も仕掛けもある魔法
06.サニーボーイ・レイニーガール
07.涙は雨粒
08.蝶々になって
09.打上花火(DAOKO SOLO ver.)
10.NICE TRIP