レビュー
My Hair is Bad | 2018.11.07
My Hair is Badの音楽を「新しい」と表現すると、戸惑う人もいるのかもしれないが、「新しい」と表現するのがどうにもこうにも一番しっくりくるのが、このバンドの興味深さであり、底の知れなさであり、かけがえのない大きな魅力だ。ギター、ベース、ドラムというシンプルな編成という点から言えば、彼らは数々の先人たちが切り拓いたものをたっぷりと継承している王道のロックバンドなのだろう。しかし、明らかに独特なものを漂わせている上に、何処となく新しい。では、その新しさとは何なのか?
エネルギッシュなサウンドを奏でるロックバンドは、多くの場合、「力強い」という印象とストレートに結びつくものだし、ライブの空間は「スポーティー」とでも言うべき爽快感に満ち溢れる。しかし、彼らの音楽を聴いた時に噛み締めるのは、そういうものとは何かが異なる。こっそりと絆創膏で隠していたかさぶたを剥がされるかのような感覚とでも言おうか? 何かを発散させてくれるというよりも、我々リスナーが密かに抱え持っている悩み、切なさ、悶々と艶かしくシンクロしてくるのが、彼らの楽曲群だ。描かれているあれこれが他人事だとは全く思えないという圧倒的なリアリティ、同時代性という鮮烈なスパイスを炸裂させながら、「今、この瞬間に、自分にとって必要な音楽」と確信させてくれるからこそ、My Hair is Badの音楽は「新しい」という印象を我々に与えるのだと思う。
次のアルバムを見据えて、今年の夏に一気にレコーディングした12曲の中から選ばれたのだという5曲によって構成されている今作『hadaka e.p.』。遣る瀬無い風味のメロディに浸るのが堪らないほど心地よい「次回予告」。何かを振り切ろうとするかのような疾走感に満ちつつも、瑞々しいメロディを果てしなく響き渡らせる「惜春」。恋の真っ只中にいる心の揺らぎの中から、何かとてもピュアなものが浮かび上がってくる「微熱」。張りつめた空気感、サイケデリックな旋律、起伏に富んだ展開、不穏な心情の爆発の塊「天才っていいな」。朝焼けのように徐々に力強く高鳴っていく様がとても美しい「裸」――描かれているものは幅広いが、ここに一貫して脈打っているのは「生きている」ということと不可分な、迷いと雄々しさ交じりの複雑な足取りだ。決して手放しで喜べることばかりではなく、失望の種は尽きないが、それでも光を求めて彷徨うことをやめないまま「今日」という場所に辿り着き、ここから先もどうにかこうにか進んで行くのだろう、あなた、私、彼、彼女……あらゆる人々の姿が、この5曲の中で確かに息づいている。今作も、たくさんのリスナーの心を激しく掴むことになりそうだ。
【文:田中 大】
リリース情報
hadaka e.p.
発売日: 2018年11月07日
価格: ¥ 1,389(本体)+税
レーベル: EMI Records
収録曲
1.次回予告
2.惜春
3.微熱
4.天才っていいな
5.裸