レビュー

ヤングオオハラ | 2018.11.20

 ポテンシャル、親しみやすさ、分かりやすさ、伝わりやすさ、歌の物語や情景の可視化しやすさ、そしてそこはかとない開放感やダイナミズムーー。これらを全て擁した、このヤングオオハラは誠にこれからが楽しみなバンドだ。

 この秋口、彼らのライブを観る機会が2回程あった。一つはライブハウス、一つは野外フェス。ライブハウスの方はサーキットフェスで満場。一方フェスは台風接近の強風降雨、会場も田んぼ状態の中だったこともありオーディエンスは数十人であった。そこでも彼らは満場のライブハウスと変わらず「天候なんて関係ない。観ている人数なんて関係ない。俺らは俺らのライブをやるだけ!」と言わんばかりの全力のステージを魅せてくれた。

 ハローユキトモ(Vo&G)が購入したばかりの新品のジョージコックスを汚すことも気にせず、田んぼのようにぬかるんだ客席にあえて降り、そこで地面を転がり泥まみれになりながらもライブを楽しんでいる光景に、今やすっかり失ってしまった大切な何かを見た気がした。

「少年のような心を持った大人」なんて言葉をたまに耳にするが、実際そんな大人がどれぐらいいるだろうか? いや、子供以上大人未満の20歳前後の子でさえ、今やすっかり大人的な秩序や生活に捉われている。

 そういった意味では、ヤングオオハラは「大人に憧れているキッズ(小僧)」のようなバンドだ。
新人にしていきなりここまで開放感やダイナミズムを擁しているバンドも珍しいと思える彼ら。そしていい意味でのキッズ(小僧)らしさ。この小僧らしさが彼らの場合、実に重要だったりする。

 2016年8月に始動した沖縄在住のこのヤングオオハラ。沖縄県内のライブハウスを中心に活動中のロックバンドだ。メンバーは4人。ハワイ生まれで米国人と日本人のハーフの現役大学生ハローユキトモ(Vo&G)、ヨウヘイギマ(G)、ミツキング(B)、ノリバルカン(Dr)から成る彼ら。これまでに沖縄限定やライブ会場限定でCDをリリースしたり、配信で楽曲を発表し、この夏には『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018』『RISING SUN ROCK FESTIVAL2018 in EZO』『BAY CAMP 2018』といった錚々たる大型フェスに、全てオーディションを突破し出演を果たした。そんな彼らの初の全国流通CDとなるのがこちら。

 ここには彼らの代表曲たちがタイプ様々に収まっている。そしてどれもがライブ同様、「大人に憧れている子供」のようなキラキラとした瞳とギラギラとした想いを抱いていたりする。

『YOUNG☆BEATS』とタイトルされたこのアルバムは、大らかさを擁しながらも勢いのあるサウンドに乗せて、新しい生活に踏み出そうと誘う「新」から始まる。サビで現れる清涼感溢れる開放感もたまらない同曲。しかし、ここで歌われているのは別に環境を変える際のみならず、気の持ちようでいつでもどこでも心機一転出来るって類のこと。毎度、気の持ちようで生まれ変われる新しい自分に出会えることを信じさせてくれるナンバーだ。けして歌われてはいないのだが、私には“さぁ、深呼吸してみよう”とも響いた。そして、場面はいきなり夜へと誘われる。ファンキーさも有したギターカッティングとややダンサブルさを擁した2曲目の「ホーリーランド」に於いては、彼らの違った趣が楽しめる。また、3曲目にはひと夏の冒険またはアバンチュール。あの夏休みの背伸びした、ちょっとした悪さや大人になったドキドキした気分が歌われる。キラキラとしたウワモノ同期も交えた、青年版「スタンドバイミー」とも呼べる「サマタイ」。そして、4曲目の「朝になったら」では、彼らの大らかさとダイナミズムを味わうことが出来る。エモさ、そして刹那な切なさを交え伝えられる同曲は、サビではどこか天空まで引き上げてくれるのも特徴的だ。5曲目の「HANBUN」は、これまでとは打って変わってミディアムなナンバー…と聴き進めていくとビックリ、いきなり倍テン(倍のテンポ)に急シフトし、それが聴き手をグッとこさせ、更に彼らの世界観へと見事に惹き込んでいく。ここまで5編の小僧達の物語の最後には、2ビートなエモナンバーの「美しい」が待っていた。シンガロング出来る箇所もあり。全員で歌え一緒に大団円を迎えることが出来るというわけだ。

 ここには今しか歌えない。言い換えると今だから歌える楽曲ばかりが詰まっている。まだ机上での楽曲も存在してそうだ。この、いま有しているキラキラをどう保持しつつ、これから否が応でも向き合わなくてはいけない成長や成熟とどう対峙していくのか? 今後の成長を温かく見守っていきたいと思う。

 しかし彼らならこのまま都度、新しい自分や興味のあることを取り込み、表し、「背伸びをした小僧のまま」乗り越えていけそうな気がする。いや、彼らなら絶対にやれる。最後に強く言いたい。あらゆる意味で彼らはこれからが非常に楽しみな「小僧」バンドだと。

【文:池田スカオ和宏】

リリース情報

YOUNG☆BEATS

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YOUNG☆BEATS

発売日: 2018年11月21日

価格: ¥ 1,800(本体)+税

レーベル: MUNCHKeeN RECORDS

収録曲

1.新
2.ホーリーランド
3.サマタイ
4.朝になったら
5.HANBUN
6.美しい

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