レビュー
ENTH | 2019.03.06
「今後はミディアムでスケール感のある曲か、ファストでショートの曲かのどちらかの要素の曲たちに各曲が寄っていくと思う」――以前、ENTHのボーカル&ベースのdaiponは、私にこんなことを語ってくれた。まさにその時の言葉通り、その両極が1枚の中に各曲で同居しているのが今作ミニアルバム『SLEEPWALK』だったりする。
多くの人がご存知だろう。彼らの音楽性の魅力の一つは楽曲の目まぐるしさにあることを。カオスと言ってもいいぐらいに様々なパンキッシュな音楽性の断片の数々を次から次へとクルクルと転がしていくスタイルとでも言うべきか。それはテンポ感も含め様々なものをまさに「巻き込んでいる」かの如く。ファストが現れたと思ったらハーフになって、ブラストが来たと思ったら急にスカに豹変したり、ツービートからミディアムへの急変やシフトもあった。そして、リスナーやオーディエンスたちは、そんな彼らの次の展開が分からない音楽性や盛り上がりまくりづらさを乗り越え、しっかりと身に叩き込み、ライブに挑み、そこで実践し、しっかりノリこなす快感性を手に入れていた。しかし、今作は明らかにそれらとは趣きが違う。そして、より歌やメロディに寄り添った演奏も耳を惹く。
ここで勘違いして欲しくないのは、それは決してシンプルや単純になったとは違った類い。もちろん楽曲はいい意味で分かりやすくなり、展開もこれまでよりもスムーズ、乗りやすいし、盛り上がりやすい。しかし、そこに込められた要素は密度も高く、いったんギュッと詰め込んだものを極力削ぎ落として完成に至らせたと思しきものだ。音も重厚でより一音一音が重くもなり、シャープでもあり、どっしりもしている。しかもより奥行きも生まれており、いわば更にどちらかに特化させつつも濃密凝縮された全7曲と言える。
幕を開けの「SLEEPWALK」は高らかな宣言の如し。サビのワンフレーズが雄々しく高らかに響く導入部からミッドも活かした日本語が印象深いナンバーだ。てっきりファストでカツンとくる予想だったので、いい意味で裏切られた。時々切り込んでくる日本語が詰問し、考えさせられる。続く「SUKI」はインストナンバー。楽曲の展開と若干のハミングだけで最後まで聴かせ、各人にストーリーを思い起こさせるのも特徴的だ。これをあえて1曲目に持ってこなかったところに彼らの進化を感じた。自分なら「IN MY VEIN」を今作のリード曲に推す。彼らの真骨頂が活きながらも、キチンと歌が前面に出、かつ聴くものに景色を浮かばせるスケールの大きな情景感溢れる曲だ。
ここからは打って代わりファストでショートなチューンが並ぶ。「SELF」は疾走感溢れるナンバー。ここでも歌が映えている。かつての泥酔ソングの次は貧乏ソングだと言わんばかりに彼らのお茶目な部分が楽しめるのが「NO MONEY」。これもファストな要素で聴く者の耳に飛び込んでくる。ファストな曲は続く。彼らのライブ後半の畳み掛ける場面ともオーバーラップを魅せる、この辺りのゾーン。続く「ANU」はアンセム必死なシンガロングできるチューン。みんなの雄々しい呼応場面も浮かんでくる。それらをくぐり抜け、最後にはミディアムな「SWAY」に辿り着く。これもスケール感やダイナミズムのある曲だ。しかし、これで大団円とはあえて響かせず、きちんと前向き、明日向きとさせ、ちょっと想いを馳せさせる面を最後に用意したのは、彼らのリスナーに向けてのメッセージのようにも映った。結局はTo Be Continueであり、To Doなのだ。
さて、聴き終わった後に想像したのは、今作を経て変わるであろう彼らのライブ会場の光景だ。これまでカオス化がある意味醍醐味だった彼らのライブが、楽曲毎に盛り上がる曲、声を合わせて上げる曲、モッシュ必至の曲や聴き浸ったり、情景や想いを馳せる曲と、曲毎の画一化も現れそうだ。しかし、より幅も広がり、これまで以上に聴く層も広がりそうだ。一人一人が思い思いの各曲での楽しんでいる姿が浮かんでくる今作。さぁ、次のライブでの答え合わせも楽しみになってきた。そう、ENTHは進化していく。自身もリスナーやオーディエンスと共に。
【文:池田スカオ和宏】
リリース情報
SLEEPWALK
発売日: 2019年03月06日
価格: ¥ 1,800(本体)+税
レーベル: TRUST RECORDS
収録曲
01.SLEEPWALK
02.SUKI
03.IN MY VEIN
04.SELF
05.NO MONEY
06.ANU
07.SWAY