レビュー
sumika | 2019.03.22
私なりに「国民的アーティストとは?」について考えを巡らせていた頃、ふと届けられたsumikaのニューアルバム。それを繰り返し聴き、私なりに国民的アーティストの基準が定まった。それは「誰もが知ってる」「大ヒット曲を持っている」「みんな大好き」「テレビ等でよく取り上げられて話題の…」等々はもちろんのこと、そこに「誰からも嫌われない歌や存在であること」が加わる。そしてこの『Chime』は、毎作ながら今作も、誰にも嫌われない楽曲ばかりが収まり、幅広く裾野の広い層に愛される要素を多分に持った作品となっている。
お察しの通りこの時代は、誰からも嫌われないことは多くの人に好かれることよりも難しい。しかし、このアルバムこそはそれを成立させている。とは言えそれは決して八方美人や他人の顔色を伺ったり、当たり障りのなさや、世のウケの良さを狙った作品とは別の次元。自身のアイデンティティをキチンと擁し、中には、しっかりと現代SNS社会に対峙した曲や、ちょっとヤバい雰囲気の楽曲も収まっている。しかし、それらを押しなべてもそこに嫌いになる理由が見受けられない逸品なのだ。今作は文字通り彼らがライブ毎のエンディング時に会場に向け言葉として残して帰る、「老若男女いつでもいらして下さい。その為に常に門戸は開けて待っています」がしっかりと楽曲化/作品化されているのだ。
このアルバムは軽快な「10時の方角」にて聴き手を門戸全開でウェルカム。「心の赴くままに進もう」と誘う。続いて、この時期にぴったりな、何かを始めたくさせる「ファンファーレ」に飛び込むと、夜や闇を超えて迎えに来てくれたような嬉しさが待ち受けている。そして、場面を更にパッと明るくしウキウキした気持ちにさせてくれるのは、彼らお得意のラグタイム感も交えた「フィクション」。同曲ではストリングスも加わり、パーッとストーリーが溢れ出していく。ここでテンポはミディアムに。「Monday」がリラックスな雰囲気へと誘ってくれる。ラフなフロウにメンバーや女性コーラスも加わり、ちょっと大人な情調を感じさせてくれ同曲を進んでいくと、突如無垢な雪原に出くわす。爽快感溢れる「ホワイトマーチ」だ。対して次曲の「Strawberry Fields」に於いては、どこか密室へと辿り着かせた。ジャジーな4ビートやウッドベース、シャッフルの効いたリズムにアダルトな空気感がビバップなステップを踏ませる同曲。ここでの聴きどころは各人のソロ回しのリレーションと応酬&合戦に尽きる。これらは今後のライブの際のハイライトにもなりそうだ。
ここから2曲は昨夏上映の劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』の挿入歌と主題歌が続く。ようやくフルで聴けた小川作曲の「秘密」が後半への広がりに更なる白昼夢と心地よさ、福音を呼び込めば、「春夏秋冬」では優しく温かい涙を浮かばせてくれ、且つ力強い精彩さを与えてくれる。場面を変えるように現れた「Hummingbird’s Port」は、ラグタイム感溢れるハッピーなインスト曲。そこから続く後半に向けてのゾーンはライヴ盛り上がり必至な楽曲が並んだ。中華的旋律も交えた、上昇感溢れるみんなで一緒に声を合わせられる箇所多数な「Flower」、現在SNSに対しての一過言をラテンポップやアークティック的音楽性で伝える盛り上がり必至な「ペルソナ・プロムナード」、以降はまたしっとりと、夜でジャジー且つアダルティな「あの手、この手」が片岡、ゲストヴォーカルの吉澤嘉代子それぞれによって伝えられ、同じ曲ながら男と女の視点を楽しませてくれる。そして、チェロの厳かさとセンチメンタル性を帯びた鍵盤を基調に愛しさをジワジワと広げていった「ゴーストライター」を経て、ラストはハッピーエンドで大団円とばかりに、一緒にこれまでも末永くよろしく的な「Familia」が派手にグランドフィナーレを飾る。聴いた者全員を幸せにしてくれる同曲。前作アルバムのタイトルながら楽曲として今作に入れるところに、今後の彼らのファンとの関わりの言語化を見た。とまあ、これらを嫌いになる理由が思い当たらない非の打ちどころのない14曲だったりもする。
多くのそして幅広い層の方に好かれることはもちろん、逆に万人に嫌われないであろう楽曲たちが立ち並んだ今作。とは言え、私は現段階で今作や彼らをあえて「国民的な」とは称さない。もちろん心の中では、その基準は充分満たしている。しかし今作の発売以降、この作品の普及や広がり、今後の活動の広がり等々で、今年の年末には誰もが認める国民的アーティストと称される確信があるからだ。彼らは絶対にそのステイタスを手に入れられる。疑っている方は是非今作を聴いてみて欲しい。
上記を総じて現時点で私が自信を持って告げるのは「彼らこそ、プレ国民的アーティスト」ということだ。
【文:池田スカオ和宏】
リリース情報
Chime
発売日: 2019年03月13日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: SMR
収録曲
01. 10時の方角
02. ファンファーレ
03. フィクション
04. Monday
05. ホワイトマーチ
06. Strawberry Fields
07. 秘密
08. 春夏秋冬
09. Hummingbird’s Port(Instrumental)
10. Flower
11. ペルソナ・プロムナード
12. あの手、この手
13. ゴーストライター
14. Familia