レビュー

My Hair is Bad | 2019.06.26

 溢れる創作意欲を全開にしながら制作が進められたのだという4thフルアルバム『boys』。
新曲のみで構成されているという点からも、彼らが抱えていた圧倒的な熱量が伝わってくる。そして、実際に聴いてみると、我々リスナーがMy Hair is Badのどのようなところに惹かれているのかを改めて認識できると同時に、彼らの力強い進化を実感できる仕上がりにもなっているのが、今作の大きな魅力だ。

 My Hair is Badの何がリスナーを惹きつけるのか? 様々な意見が当然あると思うが、「エモーショナルなバンドサウンド/赤裸々に痛みや悲しみを描写する歌詞」という、相反しているとも言える要素が融合している点が好きだという人は、多いのではないだろうか。熱いサウンドを感じながら気持ちを昂ぶらせる程に、心の奥底にある繊細な部分も刺激されるこのような風味は、なかなか他のロックバンドの音楽では噛み締められない。硬派、骨太、筋肉質な音に、ここまで弱さも含む内面を吐露する歌詞をのせるというのは、おそらく大半のミュージシャンが無意識の内に避けることであり、仮に実現しようとしても容易ではないのだろうが、それを見事に具現化しているからこそ、My Hair is Badは活動を重ねる毎に、存在感を増しているのだと思う。「発明」とも言うべきこの独自性は、『boys』に収録されている13曲の中で、ますます鋭い切れ味を発揮している。

 今作で描かれている内容は幅広いが、一貫しているのは「過ぎ行く日々をしっかりと見つめる眼差し」だ。もう戻ることができないあの頃の記憶の中にいる「君」のシルエットを美しく浮き彫りにしている「君が海」。感情の矛盾、迷い、遣る瀬無さと不可分である恋愛を豊かな物語性と共に描いている「浮気のとなりで」。楽しい思い出の狭間で恥ずかしさ、情けなさ、申し訳なさも塗り重ねていく場所である「故郷」に対する想いが温かく滲んでいる「ホームタウン」。とことん開き直った自虐の連続が、しぶとい生命の息遣いを不思議と感じさせる「怠惰でいいとも!」。床に這いつくばらんばかりの愛情表現が、恋心のリアルを捉えている「虜」……などなど、秀逸な曲たちがたっぷりと並んでいる。そして、これらに脈打っているものが集約されているように感じられるのが、『ファンタスティックホームランツアー』でも披露された曲で、今作のラストを飾っている「芝居」だ。人生を一篇の物語として捉えて、楽しい場面、悲しい瞬間、恥ずかしい台詞、忘れられない共演者、思いもよらない展開が連なっていく日々を大切に積み重ねていこうとする想いが伝わってくる。

 無数の感情、出来事、出会い、別れを重ねながら生きている我々にとって決して他人事ではない視点が、このアルバムには貫かれている。自分の人生の風合いの変化を感じながら、長年に亘って聴き続けられる作品として、たくさんのリスナーに愛されていくと思う。

【取材・文:田中 大】

リリース情報

boys

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boys

発売日: 2019年06月26日

価格: ¥ 2,800(本体)+税

レーベル: ユニバーサルミュージック

収録曲

1.君が海
2.青
3.浮気のとなりで
4.化粧
5.観覧車
6.ホームタウン
7.one
8.愛の毒
9.lighter
10.怠惰でいいとも!
11.虜
12.舞台をおりて
13.芝居

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