レビュー

踊Foot Works | 2019.07.03

 今年4月24日に配信された踊Foot Worksのアルバム『GOKOH』が、ニューシングル『KAMISAMA』とカップリングされてフィジカル・リリース。たまたまではあるが(いや、もしかしたら確信犯か?)平成と令和、ふたつの時代の変節点をまたいでこの作品がリリースされるというのは何か意味ありげな感じもする。というのも、本作は、それが意図されたものか否かを別にして、閉塞しヴァーチャル化する時代にあって「リアル」はどこにあるのかという問いかけになっていると感じるからだ。



 ひとつ象徴的な例を挙げるなら、『GOKOH』のアートワークは1982年にアメリカのゲーム会社・アタリからリリースされた『E.T.』のビデオゲームのパッケージをサンプリングしている。そして『GOKOH』の1曲目「2019 IN EXCAVATE」はそのイメージを踏襲したダークSF調のイントロダクションとなっている。その『E.T.』のゲームは現在にいたるまで伝説のクソゲーと評される代物で、発売当初からまったく売れず、困ったアタリ社が余剰在庫を地下に埋めたという都市伝説がまことしやかに囁かれるようになった。

 その廃棄された未来の亡霊みたいなモノをサンプリングするという感覚こそどこかヴェイパーウェイヴ的であり2010年代的なのだが、この話には続きがある。「アタリが売れないゲームを埋めた」という都市伝説は実はまったくの事実であり、実際にニューメキシコの埋立用地を「発掘」してみると廃棄されたゲームのカートリッジが大量に出てきたというのだ。つまり『GOKOH』のアートワークが相手にしているのは「亡霊」というよりもむしろ甦った「ゾンビ」のようなものなのであり、その意味で本作は2010年代の一歩先に行っているといえるのだ(そういえば、踊Foot Worksは最初から自分たちを「2020年型」と呼んでいる)。

 ヒップホップに軸足を置きながらもファンク、ロック、ソウル、ポップスとジャンルを横断し、ラップも歌もいくつものスタイルを使い分け、さらに「GOKOH」では本来シンガーではないOKAMOTO’Sのオカモトレイジを召喚して最新型のビートミュージックを鳴らし、つまり音楽的にはますます何でもありとなっている『GOKOH』にあって、貫かれているのはほぼすべてのリリックを書いているPecoriのリリシズムとリアリズムだ。



 〈夢は醒めないままで/新宿を練り歩く〉(「JELLY FISH」)に始まり〈夕日はナポリタン〉(「髪と紺feat. AAAMYYY」)〈僕はGoogle Mapから消え/死んだろかって〉(「VIRTUAL DANCER」)〈ラブホの珈琲を飲み干したら/寝汗の海に溺れてしまうのさ〉(「NEASE」)と、本作の歌詞は五感の記憶を呼び起こす言葉のオンパレードだ。つまりここに踊Foot Worksが叩き起こした「ゾンビ」の正体があるとはいえないだろうか。リアルな感覚と感情、ヴァーチャルな時代に一度は打ち捨てられたかもしれないそれを、『GOKOH』は取り戻す。

 そして。今回アルバムに追加されたシングル表題曲「KAMISAMA」はその先でどんな未来が可能なのかを探求している。〈教えてよ神さま/次はどうすればいい?/時代が違くたっても/手を繋げるんだろうよ〉。どこかメランコリックな空気もまとったこのラブソングの切なさは過去に憧れるというより未来を切望するためのそれだ。オリンピックも近づいてきた、それが何かを生むかはわからないけど。元号も変わった、それに意味があるのかはわからないけど。ただ、踊Foot Worksの時代、2020年はすぐそこにきている。



【文:小川智宏】

リリース情報

new album with newest single “GOKOH + KAMISAMA”

new album with newest single “GOKOH + KAMISAMA”

発売日: 2019年07月03日

価格: ¥ 3,241(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

including CD-1: album “GOKOH”
01. 2019 IN EXCAVATE
02. JELLY FISH
03. 髪と紺 feat. AAAMYYY
04. HORSEMAN DRIFT ROMANCE
05. PRIVATE FUTURE
06. HELAGI
07. VIRTUAL DANCER
08. NEASE
09. GIRAGIRA NEON
10. テレコになって
11. SEASONS
12. GOKOH feat. オカモトレイジ

CD-2: single “KAMISAMA”
01.KAMISAMA
02.メスゴMIRROR

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