レビュー
PEDRO | 2019.08.28
BiSHのメンバー「アユニ・D」のソロプロジェクトとして、昨年、始動したPEDROが、1stフルアルバム『THUMB SUCKER』で、ますます熱いサウンドを鳴り響かせている。前作『zoozoosea』同様、全曲の作詞をアユニが手掛けていて、一部の作曲も担当。そして、田渕ひさ子(NUMBER GIRL, toddle)が、全曲の制作に参加している点にも注目させられる。田渕は、昨年9月に行われたPEDROの初ライブでサポートメンバーとしてギターを弾き、今年の夏に全国各地を巡ったツアーでも圧倒的な存在感を放っていた。今作で炸裂させているサウンドも強力極まりない。
アユニの実像が刻まれたドキュメンタリー的な側面を帯びているのも、このアルバムの大きな魅力だ。収録されている13曲で描かれていることは様々だが、一貫したテーマを挙げるならば、それは「日陰者の胸の内で燃え盛っている生命の炎」とでも言うべきものだろう。どんなに居心地の悪さを噛み締めていたとしても、この世に存在することをやめていない人は、何もかもを諦めているわけではない。今は不甲斐ないとしても、いつかは多少なりとも陽の当たる場所に辿り着きたいと、心の底では願っているものだ。本作に耳を傾けると、そういう人物の姿が、ありありと浮かぶ。
アユニが器用に生きてきたタイプではないことをよく知っている清掃員(BiSHファンの呼称)は、当然、それぞれの曲を本人と重ね合わせて聴くだろうし、彼女のことをよく知らない人も、生々しい想いを感じ取らずにはいられないと思う。そして、アユニがベースを弾くことに完全にのめり込んでいて、他の楽器と音を重ね合う「ロックバンド」という表現の喜びに目覚めている様子も、鳴っている音から真っ直ぐに伝わってくる。そういう彼女の姿を通じて、何らかの勇気を得るリスナーは、少なからずいるはずだ。「情熱を傾けられるものを見つけたアユニが眩しいくらいに輝いている」という事実自体も前向きなメッセージを示すようになっているのが、現在のPEDROだと言えよう。
少しでも興味のある人は、早速、実際に今回のアルバムの曲を聴いて、ガツン!とした衝撃を喰らってしまうに限る。ザラついた質感のサウンド、骨太なビートが、文句なしに心地よい「猫背矯正中」。不穏にウネるベースが刺激的な「EDGE OF NINETEEN」。爽やかではあるが、何処か毒気も漂わせている「NIGHT NIGHT」。ヤサグレ感があるのに可愛らしいというアユニの歌声の特色が存分に活かされている「ボケナス青春」。歌って演奏する喜びに満ち溢れている「ラブというソング」……その他にも、パンチの利いた曲がたくさん並んでいる作品だ。「かっこいいロックバンドの音を聴きたいんだ!」という人に対しても、このアルバムは自信を持ってオススメできる。
【文:田中 大】
リリース情報
THUMB SUCKER
発売日: 2019年08月28日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: ユニバーサルミュージック
収録曲
01.猫背矯正中
02.Dickins
03.STUPID HERO
04.NIGHT NIGHT
05.SKYFISH GIRL
06.EDGE OF NINETEEN
07.ボケナス青春
08.おちこぼれブルース
09.NOSTALGIC NOSTRADAMUS
10.ironic baby
11.玄関物語
12.アナタワールド
13.ラブというソング