レビュー
ヨルシカ | 2019.08.28
夏休みの終わり、その一音一音に琴線を刺激される究極のコンセプトアルバムが届いた。シリーズ化された映画のように待ちわびたヨルシカの最新2ndフルアルバム『エルマ』を聴いた。本作は、今年4月10日にリリースした1stフルアルバム『だから僕は音楽を辞めた』の続編となる作品だ。
ヨルシカとは、ボーカロイド・クリエイターとして知られる音楽家n-buna(ナブナ)と、シンガーsuis(スイ)によるバンドだ。物語性の高いピアノ&ギターサウンドと、透明感のある今にも泣き出しそうな歌声によって、2019年の音楽シーン=ネット発アーティストを牽引する逸材だ。ミュージックビデオ総再生回数は2億回を超えており、YouTubeで人気曲「言って。」「ただ君に晴れ」が4,000万再生を突破。「ヒッチコック」「藍二乗」「だから僕は音楽を辞めた」は1,000万再生を突破するなど、顔出しをしない謎めいたアーティストでありながら驚異的な人気を誇る新しい才能だ。
シリーズ作品ではあるが楽曲単体でも楽しめる、クオリティーの高さが魅力のヨルシカ作品。しかし、アルバム作品として楽曲同士が断片的に繋がるシアトリカルな世界観の構築、伏線の回収などにも注目してほしい。
物語のあらすじを解説しよう。前作アルバム『だから僕は音楽を辞めた』は、音楽をやめる決断をした青年がスウェーデンの街を旅しながら、エルマという女性へ向けて書き留めた作品というコンセプトで物語が進んでいく。ドラマティックなインストを含む全14曲は、8月31日から4月10日へと時系列を逆に遡っていく。
情報化社会へと突き進む過渡期である現代。VRやARなどテクノロジーの進化によってエンタテインメントの表現が変わろうとしている。しかし、ヨルシカは驚異的な楽曲力の高さ、そしてCDの初回限定盤には、作品とリンクする手に取れるアナログなアイテムを用意することでテクノロジーを超えた“本物”の没入感を提供してくれる。みんな、こう思うことだろう「これが欲しかったんだよ!」と。
前作『だから僕は音楽を辞めた』は、作品とリンクする木箱風のBOXでリリースされ、写真や手紙が封入されるなど、物語の世界観に入り込んだかのような体験ができることが魅力だった。そして、最新作『エルマ』初回限定盤ではエルマの書く日記帳が付くという。そう、本作は『だから僕は音楽を辞めた』での主人公の青年から送られてきた手紙に影響を受けたエルマが手掛けた楽曲14曲を収録している。
曲名から対をなす「憂一乗」と「藍二乗」と、「夕凪、某、花惑い」と「八月、某、月明かり」など、アルバム2作品においてリンクする物語性。さらに、本作のハイライトになるであろう心象風景を描いた「ノーチラス」。美しきピアノロックによる名曲たち。そしてサウンドトラックを演出する風景の浮かぶインスト・トラックが解き放つリアリティー溢れる存在感。
ヨルシカが提供する物語の断片をきっかけに、リスナーはそれぞれ想像力の翼を広げて自由に音楽を楽しむことができる。大好きな「雨とカプチーノ」のイントロダクションなど、物語の枠を超えて、記憶の片隅に追いやられた少年期の思い出を回想させてくれるかのような、そんなスイッチとなるスピリチュアルな体験を感じた作品でもあった。音楽のチカラってすごいなぁ。
【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】
<ライブ情報>
ヨルシカ Live Tour 2019「月光」
10/17(木)東京 TSUTAYA O-EAST
10/21(月)大阪 BIG CAT
10/22(火・祝)愛知 ボトムライン
リリース情報
エルマ
発売日: 2019年08月28日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: UNIVERSAL MUSIC LLC
収録曲
01. 車窓
02. 憂一乗
03. 夕凪、某、花惑い
04. 雨とカプチーノ
05. 湖の街
06. 神様のダンス
07. 雨晴るる
08. 歩く
09. 心に穴が空いた
10. 森の教会
11. 声
12. エイミー
13. 海底、月明かり
14. ノーチラス