レビュー
向井太一 | 2019.09.18
向井太一の楽曲に触れるたびにそこに込められた意志の強さに驚かされる。スムースでグルーヴィーなサウンドと彼自身の人懐っこいキャラクターに「騙されて」その音楽の森に足を踏み入れていくと、そこにはディープで生々しく人間的な深みが広がっているのだ。ラブソングにしろ、メッセージソングにしろ、向井は必ずそこに「自分はこう思う」とか「自分はこうする」という決断を重ね合わせる。それが向井というアーティストのアイデンティティの証明にも、一種の態度表明にもなっている。それが彼のユニークネスだし、彼の表現の強さにつながっている。
そういう意味で、この3rdアルバムはこれまでの彼の作品の中でももっともその深みに浸かっている作品だといえるかもしれない。蔦谷好位置や☆Taku Takahashi(m-flo)、tofubeats、KREVAなど先達たちとの制作を通してポップな方向に音楽的な可能性を押し広げた前作『PURE』に対して、今作はおなじみstarRoやgroovemen Spot、CELSIOR COUPEらに加えて、SIRUPが所属する大阪のクルーSoulflexのMori Zentaro、神戸のデュオOpus Innらエッジの立ったプロデューサー陣が参加。アートワークにもアジアの気鋭クリエイターを起用するなど同時代感を強く感じさせるフォーメーションで、その鋭敏な感性をフルに発揮している。音楽的にも彼の出自であるオルタナR&Bの精神性に立ち返ったようにオーセンティックな歌と先鋭的なサウンドが同居していて、原点回帰的であるというよりは原点をアップデートしたような新鮮さを感じさせるものになっている。
そしてそこで歌われている内容も、ラブソングの形を借りながら「本当の気持ち 君に聞いてほしい」と訴える「Confession」にはじまり、「世界には 僕なんかの/代わりなど いくらでもいるけど/だからこそ 僕でいること/それだけは 譲れないよ」と表現者としての決意とも受け取れる言葉を刻むタイトル曲「Savage」、「最後は勝つ」と自分に言い聞かせるように繰り返すその名も「最後は勝つ」、ミニマルなループに乗せて「I’m not doing this for diamonds/I’m not doing this for fancy cars/I just want the seat he’s sittin’ now/I worth it cause I’m doing great」(僕はダイヤのためにやってるんじゃない/イケてる車のためにやってるんじゃない/彼の座っている椅子が欲しいだけ/僕にはその価値があるから ※翻訳筆者)と、英語詞だからこそ書けたのであろう強い思いを歌う「Dying Young」……と、強烈な意志を窺わせる。その中でも異色といえるのが、向井自身のバックグラウンドに踏み込んだと思しき「Voice Mail」だろう。成長しタフになった自分自身を刻んだこの曲を歌えたということは、おそらく彼自身にとってとても大きなことだったのではないだろうか。
この『SAVAGE』は、向井太一が決してトレンドに吸収されるようなタイプのアーティストではないことを改めて証明するアルバムだ。作品の端々から、アーティストとして次のステップに進むために自分自身の思いを確認する、そんな向井の姿を感じることができる。そういうアルバムだからこそ、ボーナストラックとして収録された(ライブではすでに定番化している)「I Like It」の「好きなものを/好きと言える今の自分が誇らしい」というフレーズが一層輝いて響く。
【文:小川智宏】
向井太一 / Savage (Official Music Video)
向井太一 / I Like It (Official Music Video)
■ライブ情報
ONE MAN TOUR 2019 -SAVAGE-
10/18(金) 愛知県・名古屋ボトムライン
10/22(火・祝) 大阪府・なんばHatch
10/25(金) 福岡県・福岡DRUM LOGOS
11/03(日) 宮城県・仙台Rensa
11/10(日) 北海道・札幌ペニーレーン24
11/14(木) 東京都・Zepp Tokyo
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。
リリース情報
SAVAGE
発売日: 2019年09月18日
価格: ¥ 2,700(本体)+税
レーベル: TOY’S FACTORY
収録曲
01.Confession
02.Runnin’
03.Savage0
04.ICBU
05.君へ
06.Can’t breathe
07.Voice Mail
08.最後は勝つ
09.道
10.Dying Young
Bonus Track. I Like It