レビュー
YAJICO GIRL | 2020.02.28
昨年8月にリリースしたアルバム『インドア』で大胆なサウンドの変革を遂げてリスナーを驚かせた関西出身の5人組バンド、YAJICO GIRL。発売翌週に行なわれた、彼らが所属するMASH A&Rによるライブイベント「MASHROOM 2019」のステージでは「日本のロックに自分たちなりのニュースタンダードを作っていきたい」と語りつつ、堂々たるパフォーマンスを繰り広げて強いインパクトを残した。その後も初となるワンマンライブの実施、「TOKYO CALLING 2019」や「RADIO CRAZY 2019」への出演、さらには『インドア』収録曲「熱が醒めるまで」「IMMORTAL/2019」のMV公開など、精力的な活動を続けている。
そして、本サイトの「Coming Up Artist 2020」に選ばれるなど、各種メディアから期待のアーティストとして注目を集める中、約半年ぶりの新曲「街の中で」が配信リリースとなった。事前にティザー映像が公開されてファンの間でも話題を呼んでいたこのナンバーは、“Indoor Newtown Collective”を掲げた前作『インドア』の空気を纏いながら、また新たなYAJICO GIRLの魅力を伝えてくれる。
「街の中で」は再生した瞬間、深夜3時に目を覚ました主人公の細やかな心の動きがなめらかに丁寧に綴られる。<なにが理由でもない/けれど夜道を歩いてみようか/とかふと閃き出す>――そんな思いつきがきっかけで家の外へふらりと出ていく姿はとても何気ないようでいて、自然と芽生えたピュアな衝動に逆らわず行動することの大切さを僕たちに示唆している。この曲に前奏がないのはおそらく、そこに理由や理屈がいらないから。思い立ったが吉日。余計な感情に囚われないで、どうか一歩踏み出してみてほしいという願いゆえだろう。最小限のビートとギターとシンセで構成されたアレンジ同様、すべてがシンプルで心地いい。
<蛍光灯に照らされて/寂しそうな虫が集う/誰しもが孤独を知るのなら/このまま群させてよ>と続く四方颯人(Vo)のリリックも五感に訴えてくる迫力があって味わい深い。自分と向き合う中で生まれた言葉は強く、より内省的な面を曝け出していて、そのやるせない熱量、ほんのりトロピカルな人懐こいサウンド、眼前に広がるリアリティーと相まって、<街の中で僕ら生きる>と憂うサビが信じられないほどに輝きを放つさまは圧巻だ。「NIGHTS」がなんでもない夜を特別なものにしてくれたように、YAJICO GIRLの演奏、四方の歌は取るに足らない夜道の散歩でさえ、人生を変える決断へ繋がり得るものにしてくれる。「街の中で」には、そんな可能性と活気が潜んでいると思う。
モヤモヤした心情に寄り添ってくれて、ありふれた風景にこそ馴染む「街の中で」。間奏のベースソロを含め、音の分離具合やアンビエンス感など、胸を打つポイントは人それぞれきっとたくさんある。だけど、単にグッときただけで終わってほしくはない。最後の歌詞<その風を作り出すのは誰?>をどう受け取るのか。自分なりにどこまでも深く思考できることも、この曲の妙味なのだから。
【文:田山雄士】
■配信リンク
YAJICO GIRL「街の中で」
https://friendship.lnk.to/machinonakade