レビュー

PEDRO | 2020.04.29

 “楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバーであるアユニ・Dのソロバンドプロジェクトとして、2018年に始動したPEDRO。昨年は1stフルアルバム『THUMB SUCKER』をリリースして、全国ツアーも行うなど、活動の勢いは増し続けている。“多少ベースを弾いたことがある”というくらいだったのに、いきなりベース&ボーカルとなり、全曲の作詞を手掛け、時には作曲もしながら“ロックバンド”としての表現に向き合い続けている彼女の原動力は、何なのか? “観客、リスナーに対する責任感”も、そのひとつとして挙げられるのだろうが、“歌声と楽器の音を交し合うバンドって楽しい!”という素朴な喜びが、何よりも大きいのだと思う。ライブでの彼女から感じるのは、まさしくそういう姿であり、最新作となるEP『衝動人間倶楽部』からも、活き活きとしたエネルギーが伝わってくる。



 収録されている4曲は、全てがリード曲で、MVを手掛けたのは山田健人(yahyel)。昨年の全国ツアーでもサポートギターを務めて、アユニ・Dが多大なリスペクトを表明している田渕ひさ子(NUMBER GIRL、toddle)が、全曲のレコーディングに参加。息苦しいことばかりの毎日に立ち向かう姿勢が浮かび上がる「感傷謳歌」。理不尽だらけの世界に絶望した先に見えてくる仄かな光を示す「WORLD IS PAIN」。悶々とした想いを粉砕する爆発力に満ちた「無問題」。心が凍えるばかりの日々に寄り添ってくれる存在への気持ちを描いた「生活革命」――4曲に共通して脈打っているのは“生きにくさ”とでも言うべきものであり、その感覚への向き合い方が、各々のアプローチで描かれている。これはおそらくアユニ・Dの実像と地続きなのだろうが、“PEDRO”という表現を手にしたことで、少なからず救われている様が窺われる。このソロプロジェクトは、彼女にとってBiSHと並ぶ大切な居場所となっているのだと思う。





 「感傷謳歌」の<やってやろうじゃないか>を「やってやろうじゃなうぃか」と発音している部分に代表されるように、BiSHでも風味豊かなスパイスとなっている独特な歌唱法は、ザラついた質感のバンドサウンドの中でも輝いている。基本トーンは非常に可愛らしい声質なのに、時折、ひねくれたキャラクターを滲ませるのが、アユニ・Dの歌のかけがえのない魅力だ。彼女のボーカリストとしての持ち味も存分に発揮されているPEDROは、今後、さらに活躍の場を広げていくだろう。そんな期待も膨らむ『衝動人間倶楽部』は、刺激的なロックバンドを求めているあらゆる人に強力にお薦めしたい作品だ。



【文:田中 大】

リリース情報

衝動人間倶楽部

衝動人間倶楽部

発売日: 2020年04月29日

価格: ¥ 1,500(本体)+税

レーベル: ユニバーサルミュージック

収録曲

01.感傷謳歌
02.WORLD IS PAIN
03.無問題
04.生活革命

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