レビュー
あいみょん | 2020.06.17
TBS系火曜ドラマ『私の家政夫ナギサさん』の主題歌であり、ちょうど10枚目のシングルとしてリリースされたあいみょんの新曲「裸の心」。一度聴いただけで思わず口ずさみたくなるような、シンプルだけどとても奥深い味わいのあるバラードだ。ひとりぼっちの夜、耳の奥で聞こえる鼓動のようなビートに柔らかなピアノの音色が重なり、小さく息を吸い込んで呟くように歌い始めるあいみょんの声。具体的な情景描写はひとつもないけれど、狭い部屋の壁にもたれ、ぼんやりと窓の外を見ている主人公の姿が目に浮かんでくるよう。失った恋の痛みが消え去ることはないが、それでも少しずつ強くなって、優しくなって、誰かのことを愛しいと想う気持ちが大きくなっていく。
<この恋が実りますように 少しだけ少しだけ そう思わせて>
サビで聴こえてくるこのフレーズは、自分だけの小さな恋の呪文のような、あるいはそっと勇気づけてくれる見えないお守りのようなものかもしれない。心のどこかには今も臆病な自分がいるし、この恋だって行く先は分からないけど、それでも、それでもーー。ドラマチックな盛り上がりをあからさまに仕掛けずとも、主人公の心の動きがしっかりと伝わってくるストーリーの展開がさすがだ。冒頭のピアノに加え、どこか懐かしさを感じさせるピアニカやあたたかみのあるストリングスを用いたトオミ ヨウのアレンジも然り。あいみょん自身、このアレンジに感動して「裸の心」をシングルにしたいと思ったとオフィシャルのインタビューでも語っているので、その辺りはぜひM-3に収録されている「裸の心(Instrumental)」にも耳を傾けつつ、深掘りしてみていただきたい。
M-2は、トオミ ヨウと同じくこれまでもあいみょんの楽曲をいくつか手がけてきたSundayカミデによる「ユラユラ」。<私 今日も待っています これが本当の恋じゃなくとも>なんて歌詞をさらりと盛り込みながら、夜空に浮かぶ月の下で溶け合う2人の機微を軽快に歌う。3分にも満たない曲だが、登場人物のキャラクターやその場の生活感みたいなものまでが伝わってくるようで、卓越した表現力というか描写の的確さが凝縮されたあいみょんらしい1曲だと思う。
毎回強烈なインパクトを残してきたジャケット写真、今回はきれいに皮が剥かれたパイナップルやバナナたちだ。自分自身を守るものが何もなくなった丸裸の果実は傷つきやすくて脆い人の心のようにも思えるが、こんなにも美味しそうに熟した果実ならば恋の成就を連想することもできそう。清潔感溢れる色気も漂っていて、ビジュアル面の存在感は今作でも抜群だ。ちなみに「裸の心」は、あいみょんが自宅で撮影したというshort movieも公開中。“暮らし”の中にいるあいみょんの様々な表情がとても魅力的で、何度も見返したくなる仕上がりとなっている。
【文:山田邦子】
あいみょん - 裸の心 【short movie】
あいみょん - 裸の心【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
リリース情報
裸の心
発売日: 2020年06月17日
価格: ¥ 1,000(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン
収録曲
01.裸の心
02.ユラユラ
03.裸の心(Instrumental)