レビュー
日食なつこ | 2020.06.22
今年の1月末から行われた「△Sing better△Tour」でも披露されていた日食なつこの新曲「四十路」の配信リリースが始まり、すでに公開されていたMVの舞台裏…というにはあまりにも内容の濃いドキュメンタリー映像「間違わなかった日にたどり着くまで」も公開された。撮影の舞台となったのは、北海道の大樹町にある民間ロケット開発企業「インターステラテクノロジズ株式会社(IST)」。彼女は昨年この町で行われたフェスに出演し、その会場内でたまたまISTのブースをのぞいて話を聞いたそうだ。その後、すでに書き上げていた「四十路」という曲のテーマーーゼロから音楽を生み出す自分達の生き様と、道なき道を拓きながらロケット開発に挑む人々の言葉が徐々にシンクロしていき、これはもうMVという枠で完結させず、自分はどうしてこの曲を彼らに捧げたいと思うのか、なぜ彼らを追いかけたくなるのか、その正体を深く掘り下げたいという思いから撮影協力を依頼し、ドキュメンタリーの制作に至ったのだという。
観測ロケットの製造や打ち上げの現場でどんな人達が働き、どんな夢や信念を持って宇宙を見つめているのか。日食なつこ自身が考案してインタビューをし、ISTの皆さんから引き出した言葉はどれも素晴らしく生き生きとしていた。みんなその人のキャラクターまで伝わってくるような自然な語り口だったし、心に抱き続けている夢の温度すら感じさせるような表情だった。そしてその様子を見つめる日食なつこもまた、共感とか共鳴という単語じゃ済まされないほどの一体感というか、おそらく魂レベルで波長が合っているんだろうなと思わされるようなタイミングと口調で話を聞いているのが印象的。彼女は<「四十路」はこの方々へ捧げるために何者かに呼ばれ書き上げた曲だったのかもしれない…と錯覚するほどに、ISTの方々へシンパシーを抱き続けた撮影だった>と振り返っているが、ラストのライブシーンを見ればきっと、それが錯覚ではなかったことをあなたも確信するだろう。
出会うべき人に出会い、歌うべき場所で歌い、「四十路」という曲は出発の準備を整えた。そして日食なつこ自身もまた<立ちはだかる壁を越え、冒険心に突き動かされ進み続ける人>の1人として、惑うことなく道なき道を歩き始めている。「△Sing better△Tour」での彼女があんなに逞しかったのも、ステージと客席が美しく融合した「四十路」の大合唱が実現したのも、きっと大樹町でのこの豊かな経験があったからだ。20代最後の年、そして次なる10年への追い風なんて言ったら「まだまだこんなもんじゃないですから」と笑顔で突き返されそうだが(笑)、この曲で、この一連の流れの中で、日食なつこというアーティストが得たものはとてつもなく大きいはずだ。
【文:山田邦子】
▼日食なつこ「四十路」MVドキュメンタリー