レビュー
PEDRO | 2020.08.26
BiSHのアユニ・Dによるソロバンドプロジェクトとして、活動を重ねる毎に輝きを増しているPEDRO。セカンドフルアルバム『浪漫』を聴いて、おそらく多くのリスナーがまず感じるのは、「ロックバンドとして魅力的である」という素直な印象だろう。一応、サポートメンバーということにはなっているが、田渕ひさ子(Gt/NUMBER GIRL、toddle)、毛利匠太(Dr)が、アユニ・D(Vo/Ba)にとってかけがえのない存在となっていることも、本作を聴くと本当によくわかる。レコーディング、ライブを精力的に重ねながら3人が心を交し、鳴らすサウンドに血を通わせている様は、とても清々しくて力強い。サウンドプロデューサー・松隈ケンタ、SCRAMBLESのクリエイター陣によって、このバンドの魅力が最大限に引き出されている。
アユニ・Dが作曲した「浪漫」と「へなちょこ」は勿論、収録されている全曲の作詞も彼女が手掛けている。描かれている感情、風景、物語は多種多様だが、一貫しているのは“生きにくさ”とでも言うべき疎外感のトーンだろう。上手く溶け込めない世界の片隅に身を置きながら湧き起こる想いが、各曲で表現されている。追いつめられている人間の感情が生々しく滴り落ちてくるかのような「pistol in my hand」。やりきれなさを抱えながらも諦めてはいない生命の息遣いを感じる「乾杯」。何も為し得ないまま、ただ日々が過ぎ去って行くことへの抵抗感が滲む「さよならだけが人生だ」。非情な世界に対してギラギラした眼差しを投げかける「WORLD IS PAIN」。ひねくれまくった末の負けん気の歌とで言うべき「感傷謳歌」……などなど、あらゆる曲に、何らかの形で疎外感の気配が漂っている。しかし、世界が自分にとって居心地が悪いというのは、居場所を見つけた時の喜びが大きいということも意味する。「浪漫」「愛してるベイベー」「来ないでワールドエンド」などには、大切な存在に身を包まれる幸福が織り込まれている。バンドサウンドと歌声がエモーショナルに高鳴るほどに、穏やかな何かがさり気なく香る曲だ。
アユニ・Dがこのアルバムで描いている通り、この世は決して我々にとって生き易くは作られていない。淡々と日々を過ごしているはずなのに、理不尽な出来事、厄介なあれこれが絶えず押し寄せてくるのは、一体どういうわけなのか? しかし、そんな中にもあるはずの穏やかなひと時を、骨太でパンキッシュなサウンドで鮮烈に浮き彫りにしてくれるのが、本作『浪漫』だ。BiSHと並んで、アユニ・Dにとって大切な表現の場となっているPEDROの意義深い新たな一歩として、ぜひ全力で受け止めてほしい。
【文:田中 大】
PEDRO / 浪漫 [OFFICIAL VIDEO]
リリース情報
浪漫
発売日: 2020年08月26日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: ユニバーサルミュージック
収録曲
01.来ないでワールドエンド
02.pistol in my hand
03.浪漫
04.後ろ指さす奴に中指立てる
05.空っぽ人間
06.さよならだけが人生だ
07.乾杯
08.愛してるベイベー
09.WORLD IS PAIN
10.感傷謳歌
11.へなちょこ