レビュー
Creepy Nuts | 2020.08.27
ラジオからテレビ、出版まで、今や各方面で大活躍するCreepy Nutsだが、あくまで軸足はヒップホップ。彼らの約1年ぶりのミニアルバム『かつて天才だった俺たちへ』は、“withコロナ”な年の時事ソング「ヘルレイザー」で幕を開ける。同題のホラー映画に登場する究極の性的快楽をもたらすパズルボックスとライブハウスの通称である“ハコ”をかけて、ライブをして気持ちよくなりたいという願望を、映画からAVまでネタをたっぷり詰め込み韻もがっつり仕込んで落語テイストで歌い上げた、Creepy Nutsらしさ全開の快作である。
らしさ全開なのはしかしこの曲だけではない。タトゥーはないが<パンチラインの数々>で俺の全身は埋まっている、とボーストする「耳無し芳一Style」、自らの“たりなさ”を告白し二人で欠点をカバーし合うことを控えめに誓う「オトナ」、型にはまった思考や生き方をモンスターの<継ぎ接ぎだらけの生命>に喩えた「Dr.フランケンシュタイン」、選択を重ねて可能性を狭めてきた人生を振り返り<俺らは大器晩成 時が来たらかませ>と前を向く表題曲「かつて天才だった俺たちへ」と、どの曲にもR-指定とDJ松永の思考と情緒がくっきり刻み込まれている。
アプローチが理知的かつ屈折している上に“うまいこと言う”感が強いため、リリックだけだとクールに終始しかねないところをうまく中和しているのが、いなたいビートとメロディ、くどいバースとフックである。R-指定のいい意味で垢抜けないボーカルもそうだが、今回はTHE HIGH-LOWSのカバー「日曜日よりの使者」とオリジナル曲の「サントラ」でコラボしている菅田将暉の貢献がとても大きい。青春の輝きを宿した歌声に刺激されてか、R-指定のリリックもボーカルもいつも以上にエモーショナルに響く。
「オトナ」はドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』の主題歌、表題曲は帝京平成大学のCMソングだが、きっちり彼ら自身の実存に引き寄せて切実な内容に仕上げているのはさすが。逆に言うと、それができなかったらアルバムには収録しなかっただろう。そんな篤実さもCreepy Nutsへの信頼感に寄与している気がする。“オトナ”にはなりきれていないかもしれないが、ちゃんとしたところは実にちゃんとした二人なのだ。
11月12日には初めての日本武道館公演を行うCreepy Nuts。それまでにコロナ禍が収束しているとは思えないし、どんな条件で開催されるのかはわからないが、<fxxkな禁欲生活>(「ヘルレイザー」)のお釣りがくるぐらい、彼らがこだわる“ワンマイク、ツータンテ”のスタイルでブチかましてくれるはずだ。
【文:高岡洋詞】
Creepy Nuts × 菅田将暉 / サントラ【MV】
Creepy Nuts / かつて天才だった俺たちへ【MV】
8/26リリース ALBUM「かつて天才だった俺たちへ」ティーザー
リリース情報
かつて天才だった俺たちへ【ライブDVD盤】
発売日: 2020年08月26日
価格: ¥ 3,600(本体)+税
レーベル: SMAR
収録曲
01.ヘルレイザー
02.耳無し芳一Style
03.オトナ
04.日曜日よりの使者 (Creepy Nuts × 菅田将暉)
05.サントラ (Creepy Nuts × 菅田将暉)
06.Dr.フランケンシュタイン
07.かつて天才だった俺たちへ
DVD:2019年12月 新木場スタジオコーストにて行われたライブ「Creepy Nuts ワンマンツアー2019 よふかしのうた」の模様をダイジェスト収録