レビュー
YOASOBI | 2020.09.12
“小説を音楽にするユニット”YOASOBI。コンポーザーAyaseの才気煥発な活躍には目を見張るものがある。2020年、一気にアーティストとしても作家としてもシーンの最前線へと躍り出た。
シンガーソングライター幾田りらとしても活躍するボーカリスト、ikuraとのレコーディング方法もユニークだ。まず、Ayaseがトラックを作り、仮歌をボーカロイドを駆使して宅録にて完成させる。敢えて無機質に用意された仮歌を頼りに、ikuraは水を得た魚のように歌詞世界を理解して歌唱表現を試みる。YOASOBIらしさの完成だ。
第5弾楽曲となる最新曲「群青」は、Billboard JAPANダウンロード部門で初登場1位を記録した。青春の色、“群青”をテーマに葛藤を描くポップミュージックだ。公式SNSでは、「まだ何者でもない"青の時代"でもがくあなたへ、届きますように。」としたためられている。(https://twitter.com/YOASOBI_staff/status/1300448289272127488?s=20)
“自己表現”へと向き合った経験を持つリスナーであれば、“自分ごと”として歌詞フレーズが突き刺さることだろう。本作も、書き下ろし原作ストーリー「青を味方に」が存在し、Ayaseはテキストからインスピレーションを受け、楽曲をクリエイトした。YOASOBIがYOASOBIたる所以の発明的創作過程だ。
ikuraの仲間も加わった、個々の想いが炸裂する合唱パート<知らず知らず隠してた 本当の声を響かせてよ、ほら>のフレーズで気持ちの入った歌声が限界なきソラへと響き渡るシーンに胸を突き動かされる。
YOASOBIは、ポップスのあり方を立体的に俯瞰した視点で再構築する。それは、ボーカロイドプロデューサーでもあるAyaseがボカロ文化圏を経験されたことが大きな作用を果たしているかもしれない。完成した楽曲も、n次創作(マルチホップ的な相互引用・協働創作の連鎖現象)的に、カバー曲や動画、イラストなどが想いのこもったファンアートとして増殖し、結果として人気曲が長期間、広く拡散されることとなり、原曲がスタンダードナンバーへと結実していく。さらに、新曲を出せば出すほどに、過去曲の再生回数も伸びていく好サイクルだ。(https://twitter.com/28_3/status/1300630192805699584?s=20)
再生回数が可視化された世界では、ヒットの指標は明確であり、ミュージシャンもリスナーもフラットな関係性となる。たとえるなら、それはオーディエンスが主役なレイヴカルチャーや、既成概念を壊したパンク・ムーブメントなど、インパクトの強い音楽カルチャーと並ぶ大事件であったボカロ文化圏を経由した、インターネットで音楽を楽しむシステムの革新だ。
YOASOBIのヒットは偶然ではない。そのことを決定づけてくれるのが「群青」が解き放つ、幅広い世代をも巻き込んだヒットポテンシャルの高さだ。
【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】
<配信リンク>
「群青」
https://orcd.co/gunjo