レビュー
まらしぃ | 2020.09.29
ボカロ文化圏で独自の存在感を放つ、まらしぃ。技巧派ピアニストでありボーカロイドプロデューサーであるネット世代を牽引するハイブリッドな音楽家だ。
当初は、ニコニコ動画でゲーム楽曲の“弾いてみた動画”などで知られた存在であったが、2010年12月、ボーカロイド楽曲をピアノでカバーした『V.I.P』(「炉心融解」、「magnet」、「Just Be Friends」、「ローリンガール」など収録)、2012年10月『V-box』(「千本桜」、「パンダヒーロー」、「からくりピエロ」、「想像フォレスト」など収録)が話題となり、2013年8月、自身のオリジナル・ボーカロイド楽曲をまとめたアルバム『空想メモライズ』によってシーンの最前線へ躍り出た。
2014年10月22日、嵐のアルバム『THE DIGITALIAN』に収録された二宮和也のソロ曲「メリークリスマス」では、二宮からのリクエストでピアノを演奏したことも話題となった。
その後、積極的に音楽シーンにピアノの魅力を振りまきながら、2020年5月、大阪城音楽堂にて2度目となる本人主催フェス『まらフェス2020』が開催される予定であったが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受け中止に……。しかしながら、翌月には、ニコニコ生放送とYouTubeにおいて、まらしぃ主催フェス『まらフェス2020 ONLINE LIVE』を無料生配信で開催し、そのフットワークの力強さに驚かされた。音楽は止まらない! リアルタイム視聴者数が2万5千人を超える、音楽シーンへ大きな希望を与えたオンラインライブとなったのだ。
こうして紆余曲折を迎えながら2020年秋、大傑作アルバム『空想メモライズ』から7年ぶりにオリジナルのボカロ曲を収録したアルバム作品をリリースすることになった。9月30日、“雨、移りゆく空模様”をテーマに全曲オリジナル楽曲で構成されたコンセプト・アルバム『シノノメ ボカロ盤』、『シノノメ ピアノ盤』がリリースされるのだ。パッケージの世界観も魔法めいたアートワークによって神秘性を漂わせている今作。ボカロ盤とピアノ盤、各12曲ずつ収録されているという、まらしぃらしいこだわりだ。
注目は、まずは先行配信された「青く駆けろ!」を聴いてみて欲しい。
3月に開催された、東京マラソン 2020 オフィシャルドリンクポカリスエットアンバサダー「バーチャル東京サプライ少女 2020」応援歌に起用され、実際に「東京マラソン 2020 TV放送」のCMでオンエアされたナンバーだ。アルバムでは、まらおバンド(ベース:IKUO、ドラム:yuji yono、Guitar:KOUICHI)ヴァージョンとして新録されているのだが、さらに、ボーカリストに、初音ミク、Meiko、ミライアカリ、YuNi、富士葵、星乃一歌が参加したボーカロイドとブイチューバーの垣根を超えたスペシャル・チューンとなっている。
アルバムに収録された妖しい音色が印象的な新曲「とある霖雨」では、2018年『M-1』グランプリの霜降り明星、粗品が1曲歌詞を担当していることも話題だ。まらしぃと同じく“東方Project(上海アリス幻樂団によって製作されている著作物)”ファンであり、更に自身ボカロ・オリジナル楽曲を発表するなど、実はネット文化に精通しているという、粗品。まらしぃとも交流があり、今回オファーを快諾したという流れだ。
ボカロ文化圏のサプライズとしては、YouTubeで2,700万回再生を突破した「六兆年と一夜物語」等、投稿作品全6作がミリオン再生を突破した伝説のボーカロイドプロデューサー、kemu(堀江昌太)とのコラボ・ナンバー「十年越しのラストピース」を書き下ろし収録していることも要チェックだ。宝物のようにキラキラしたポップに疾走するロックチューンに仕上がっている。
他にもメロウな「僕のために泣いてくれ」、刹那ポップに駆け抜けるボカロック・チューン「崖っぷちオーマイガール」、歌謡シティポップ・センスあふれる「夢色七色」、泣きそうなギリギリの感情とピアノの響きが胸を打つショートストーリー「彼は誰時」、R&Bセンスを感じる跳ねるビートが心地いい「シノノメ」など注目曲でいっぱいだ。これが、ピアノ・バージョンとなるとまた新たな表情を奏でてくれるのだから面白い。是非、2枚のアルバム作品を聞き比べて楽しんでみてほしい。
シーンを見渡せば、未だ多くの制約にがんじがらめではあるが、ライブがちょっとずつ解禁されてきた動きも感じられる。しかし、なかなか元どおりにはならない。そんな中、絶望することなく、確実に前へ歩み出そうとしているまらしぃの2020年ならではの活躍を応援したい。まずは、9月30日、同時発売されるコンセプト・アルバム『シノノメ ボカロ盤』、『シノノメ ピアノ盤』をチェックしてほしい。混沌とした音楽シーンを浄化し、また一歩前へ進ませることになる重要作品の誕生だ。“雨、移りゆく空模様”。そして、雨降って地固まる2021年へ(なったらいいなぁ)。『シノノメ ピアノ盤』を聴いていたら、時勢柄、祈りのような音色にも感じたのだ。
【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】
リリース情報
シノノメ[ボカロ盤]
発売日: 2020年09月30日
価格: ¥ 2,273(本体)+税
レーベル: aSubcul-rise Record
収録曲
01.十年越しのラストピース
02.霖と五線譜
03.僕のために泣いてくれ
04.崖っぷちオーマイガール
05.とある霖雨
06.夢色七色
07.彼は誰時
08.シノノメ
09.青く駆けろ!
Bonus Track
10.Okini
11.アマツキツネ
リリース情報
シノノメ[ピアノ盤]
発売日: 2020年09月30日
価格: ¥ 2,273(本体)+税
レーベル: Subcul-rise Record
収録曲
01.十年越しのラストピース solo piano ver.
02.霖と五線譜 solo piano ver.
03.僕のために泣いてくれ solo piano ver.
04.崖っぷちオーマイガール solo piano ver.
05.とある霖雨 solo piano ver.
06.夢色七色 solo piano ver.
07.彼は誰時 solo piano ver.
08.シノノメ solo piano ver.
09.青く駆けろ! solo piano ver.
Bonus Track
10.Okini solo piano ver.
11.村雨 solo piano ver.
12.tadu