レビュー
優里 | 2020.09.25
2019年12月にインディーズからリリースした「かくれんぼ」がバイラルヒット、TikTokでは同楽曲を使用した投稿が続々投稿され、MVの再生回数は1500万回超と話題を集めたシンガーソングライター、優里。SNSを中心に盛り上がって、その盛り上がりが広がっていくという構図自体は思いっきり今っぽいが、その楽曲には「ネットを駆使する新世代」みたいな単純なステレオタイプを拒絶するような鋭さと底知れなさがある。
「かくれんぼ」にしろ、その後今年2月にリリースされた「かごめ」にしろ、優里の歌の根底にあるのは押しつぶされそうな生きづらさと孤独だ。アコースティックギター弾き語りだったりピアノを基調としたバラードだったり、楽曲ごとに音楽の色合いを変えながらも、振り絞るような震える声で歌われるその言葉がダイレクトに心に突き刺さってくる感覚は変わらない。彼がどういういきさつで曲を作り歌うようになったのかは知らないが、きっと歌わずにいられない、吐き出さずにいられないものが彼の中に生まれたのだろうと思う。やむにやまれず歌っている、そういう感じのアーティストなのだ。
その優里のメジャーデビュー曲となる「ピーターパン」。タイトルからはどこかファンタジックな印象も受けるが、当然ながらそういう曲ではない。グルーヴを強調したファンキーなトラックの上で、冒頭から<いつまで子供のままでいる?そんな言葉がふりかかる 黙って見てればいんだ笑ってそういってやれ>と歌う歌は、<ピーターパン症候群と指をさされ 罵られようが おとぎ話みたいな ハッピーエンドを 思い描いて生きていくんだ>という決意のメッセージとなって熱く立ち昇っていく。アレンジとかメロディとか、もちろん耳をこらせば聴きどころはたくさんあるのだが、はっきり言ってそういうものが耳に入ってこない。聴き終えたあとに残るのは、歯を食いしばるような優里の声と、そこに宿るヒリヒリとした緊張感だ。
<夢の見過ぎと馬鹿にされた少年が 夢を掴む物語を 見事な逆転劇をこの手で巻き起こせ 見せつけろ>。そう歌われる「物語」とは、ほかならぬ優里自身の物語だろう。彼にとって音楽とは何なのか、注目を集めるなかでのメジャーデビューがどんな意味合いをもつのか、この「ピーターパン」は雄弁に物語る。孤独を背負った若者が、より大きな舞台に立った現在地と未来への決意。これはそういう曲だ。
【文:小川智宏】
優里 『ピーターパン』Official Music Video(フル)