レビュー
SOMETIME’S | 2020.10.27
ほぼ無名に近い新人が楽曲の良さで勝負できるサブスクリプションでのリスニング指向。それをダイレクトに証明したのが今回紹介するSOMETIME’Sだ。地元・横浜で別々のバンドで活動していたSOTA(Vo)とTAKKI(Gt)が意気投合し、結成したのが2017年。スティーヴィー・ワンダーやアース・ウィンド・アンド・ファイアー、70~80年代の日本のシティポップスを想起させるメロディやコード感に、現行の洋楽のエッセンスであるEDM以降のサウンドメイクを施した、一度耳にするとクセになりつつ、ノンストレスで聴くことのできる全体像が普遍的でもあり、実は他にあまりいないタイプのユニットとも言える。
すでにデジタルリリースされ、サブスク各社のチャートで上位を獲得し、様々なプレイリストでも展開されている「Honey」「Take a chance on yourself」「I Still」を含む1st EP「TOBARI」。ユニークなのはボーカルのSOTAがコンポーズし、リリックはTAKKIが書いている点。自然に溢れるメロディに言葉をあて、そしてボーカリストとしてSOMETIME’Sの世界観をある種、演者的に歌っているのかもしれない。危うい恋や不安な夜など、なかなかスリリングなリリックが多いが、スモーキーかつ粘りのあるSOTAの声質は同時に包容力も感じさせ、軽さを払拭する。ユニット名の由来である、夢を叶えようと頑張るあなたのその想いが“いつか”実現するように、またそんな日々の中で“時々”休んでほしいというビジョンにもしっくりくる温かみや、いい意味でのいなたさも個性だ。
同時に各楽曲のアレンジやサウンドメイクはアップデートされた、現行のポップミュージックのそれ。二人をサポートするのは冨田洋之進(Dr/Omoinotke)、佐々木恵太郎(Ba)、ぬましょう(Per)、永田こーせー(Sax)、吉澤達彦(Tp)、寺谷光(Tb)、清野雄翔(Pf)という、スキルとセンス溢れる面々。有機的なバンド・アンサンブルを生かしつつ、時にローの効いたシンセベースでモダンな聴感を加えたり、ブラス・トラックス的な管楽器のアレンジで新鮮味を出したり、いきなりポップシーンのど真ん中にダイブできるクオリティを担保しているのも聴きどころ。タネを明かせばミックス・エンジニアに小森雅仁、illicit tsuboi、藤井亮介ら逸材が腕を奮っているのだ。Official髭男dism、藤井風、Suchmosなどなど、日本のポップミュージックを更新したクリエーターを刺激するメロディやフック、楽曲構成を持つSOMETIME’Sの素材の強さはここでも証明されている。
グッドミュージックの普遍性に2020年らしいエッセンスを効かせつつ、優等生的なリリックが多めのジャパニーズポップスの中で、遊び心とプリミティブな部分を融合した恋愛を歌うスタンスも新鮮。心地いいけど流れていかない――いい付き合いのできそうなニューカマーだ。
【文:石角友香】
SOMETIME’S - Morning [Official Music Video]
SOMETIME’S「TOBARI」EP Digest
リリース情報
TOBARI
発売日: 2020年10月21日
価格: ¥ 1,800(本体)+税
レーベル: SOMETIME’S
収録曲
01.Get in me
02.Honeys
03.Take a chance on yourself
04.Simple
05.I Still
06.Morning