レビュー
アイラヴミー | 2020.11.04
アイラヴミーとは、作詞作曲を手がけるシンガーさとうみほのを中心に、ギタリスト野中大司、ベーシスト井嶋素充が結成した3人組バンド。最新ミニアルバム『そのまんま勇者』は、低音の効いたタイトなビートに、フォーキーな言葉がすっと入ってくる全5曲の珠玉のポップミュージック集だ。
注目すべきは、1曲目「ナイフ」で聴けるせつなき調べに乗せて、とつとつと心情を吐露する心を鷲掴みするさとうみほのの歌声。シンセによる、羅針盤のように行き先を指し示す光のようなリフの淡い輝き。絶望から希望へと紡ぐ救済のメロディー。力強いビートが一歩一歩、心を前に進ませてくれる。
ポップミュージックは時代を映し出す鏡。アイラヴミーは、心情を映しだす割れてしまった鏡をまるでナイフのように握りしめ歌い奏でる。自分を守るために。自分の心を守るために。それは、いまの時代において、最も大切な考え方のひとつだ。明けない夜を切り裂き、自分たちの足で来るべき夜明けを歩んでいく。
2020年、コロナ禍によってカオスな時代となった。新型コロナウイルスと共に生きる社会。心が壊れやすい時代ともいえるかもしれない。測ることのできない内面の力=ソフトスキルが大事な時代だ。そんな力を伸ばすには、心理的安全性の確保が大切となる。そんな不安定で不透明な状況、みんなストレスを抱えている。
3曲目「そのまんま勇者」で歌われる“苦しい時に「苦しい」って言う勇気 我慢しないで自分を助ける勇気”。“好きなことを「好きだ」と言う勇気 わからないこと「わからない」と言う勇気”。そして、“強い私も弱い私も 両方私だねって笑える勇気”。という言葉が胸に染み渡る。そう、それこそが大切な時代だと思う。“そのまんま勇者”であることの意思表明だ。2021年へ向けて、僕らの主題歌となる曲だと思う。
さとうみほのによる言葉は、心に痛みを持ったリスナーに寄り添い勇気を与えてくれる。自分を責めがちな、怒られることが苦手な若い世代ならではの葛藤を見事に描ききっている言葉がすごい。
2曲目「ケンカしようぜ!」では、ちょっとコミカルなテイストを打ち出すポップ展開もいい。“ふたりでいたのに ひとりでいたんだ”という哀愁フレーズの秀逸さ。言葉ひとつひとつが宝物のように輝きだす。
4曲目「らぶ・ゆー・べいべー」でのレゲエ、ダブちっくなメロウな音の響きも魔法めいた輝きだ。柔らかくも畳み掛けるようにラップ調で“心配”を歌い上げる展開、サビのキャッチーなフレーズで感情を回収するポップミュージックならではの4分間のドラマティックさ。心の移り変わり。グッとくるナンバーだ。4曲目「はずかしい」ではベッドルームポップとでもいうべき、シンプルかつキラキラしたサウンドで生き方を指し示してくれる。
ラスト5曲目「答えを出すのだ」では、たゆたうビートへ物語るように想いを馳せていく。体温を感じるギターの音色。やわらなか音像の拡がり。答えなき時代のいま、胸に突き刺さるサウンドを響かせてくれるのだ。
聴後感に残るのは、他人事ではなく自分ごと。
今年の春以降、世の中の状況は一変し、音楽が持つ意味に特別な付加価値が生まれたように思う。いま大事なのは、自分の心の声を聞いて素直になること。自分の考えで、自らの決断を導き出すことだ。そんな大切なことを教えてくれた1枚。
【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】
リリース情報
そのまんま勇者
発売日: 2020年09月30日
価格: ¥ 1,909(本体)+税
レーベル: テイチクエンタテインメント
収録曲
01.ナイフ
02.ケンカしようぜ!
03.そのまんま勇者
04.らぶ・ゆー・べいべー
05.はずかしい
06.答えを出すのだ