レビュー
吉澤嘉代子 | 2020.11.25
デビュー6周年を迎えた今年、レコード会社の移籍と2年ぶりの新曲「サービスエリア」のリリースを発表した吉澤嘉代子。作品としては、現在もロングヒットを続けている名曲「残ってる」を収録したアルバム『女優姉妹』以来ということで、根気強く待ち続けたファンはもちろん、彼女自身もまたひとしおの喜びを噛み締めながら、リリース日までのカウントダウンを行ってきたのではないだろうか。
そのリリース日にあたる11月25日。実はもうひとつ、彼女の記念すべき作品がリリースされる。これまで在籍してきた日本クラウン時代の楽曲で構成された、コンピレーションアルバム『新・魔女図鑑』だ。デビューから5年分の集大成であり、いわゆるベストアルバム的な側面も併せ持つ全18曲が収録されているのだが、今回はこのタイトルに注目してみた。
彼女は2013年にインディーズで初めてリリースしたミニアルバムを、『魔女図鑑』と名付けている。そしてそこに収録されている楽曲は、デビュー後のアルバムのあちこちで新しい表情を見せながら、新録曲として私たちの元へと再び届けられてきた(1stアルバム『箒星図鑑』には「未成年の主張」と「泣き虫ジュゴン」。2ndアルバム『東京絶景』には「化粧落とし」。3rdアルバム『屋根裏獣』には「ぶらんこ乗り」。4thアルバム『女優姉妹』には「恥ずかしい」を新録で収録)。これまでのインタビューで彼女は「3枚目までのアルバムのコンセプトは、デビュー前から決めていた」と語っているように、そのインディーズの『魔女図鑑』の楽曲はすでに、デビュー後の作品の起点としての役割も担っていたのだ。そして今回、その起点から広がっていった日本クラウン時代の作品を締めくくる1枚に、『魔女図鑑』から最後の1曲を新録として加えた。デビューから5年間、敬愛するミュージシャンたちと積み上げてきた愛おしいキャリアと、そこで生まれてきた音の数々。彼女は、これからも続いていく“シンガーソングライター吉澤嘉代子”の新たな起点としての意味も込めて、この作品に『新・魔女図鑑』というタイトルを付けたのかもしれない。
新録された最後の1曲は「らりるれりん」。ナイアガラサウンドを彷彿とさせる以前のポップなアレンジから一転。君島大空が編曲を手掛けた今作は、夜風に乗って聴こえてくるブラジル音楽のような色気を纏ったギターが印象的な仕上がりとなっている。可憐なグロッケンの音色と包み込む吐息のようなコーラスワークは、少女と大人の時間をゆっくりと繋いでいくよう。彼女がこの曲を作ったのは10年前ということだが、好きな人からの電話を待っているその時間の流れ方は、今こんな風に感じられているのかもしれない。終わるのが寂しくて何度も繰り返してしまう、そんな吉澤嘉代子の名曲がまた誕生した。
初回限定盤では、昨年春に開催された「女優ツアー2019」の最終公演がほぼ全編収められたライブDVDも付属。丁寧に構成されたコンセプチュアルなステージは吉澤嘉代子のライブの真骨頂だが、今回入門編としてこの作品を手にした方はきっと、1曲1曲の奥に広がるストーリーの深さと彼女の表現力の素晴らしさにも驚くはずだ。
【文:山田邦子】
リリース情報
新・魔女図鑑
発売日: 2020年11月24日
価格: ¥ 2,727(本体)+税
レーベル: e-stretch RECORDS
収録曲
01. らりるれりん
02. 未成年の主張
03. 美少女
04. 月曜日戦争
05. 化粧落とし
06. ケケケ
07. 恥ずかしい
08. 綺麗
09. よるの向日葵
10. 残ってる
11. がらんどう
12. 東京絶景
13. 泣き虫ジュゴン
14. ストッキング
15. movie
16. えらばれし子供たちの密話
17. 地獄タクシー
18. ぶらんこ乗り