レビュー

My Hair is Bad | 2020.12.24

 CDシングル「life」と配信シングル「love」の2作品を、12月23日に同時リリースしたMy Hair is Bad。マイヘアの2本柱ともいえる“生活”と“恋愛”を冠した今作には、2020年の混乱の日々を生きた人間のリアルな想いが詰まっていた。さらに言えば、この情勢が生み出した非日常的環境が後押ししたのかは定かではないが、今までのMy Hair is Badの楽曲とはまた違った、距離の近さを感じられる作品たちだった。

 特に「life』からは、その変化を強く感じる。コロナ禍での日常を歌った「白春夢」の中で、<都庁>や<ステイホーム>といった時世を象徴するような固有名詞が使われていることも大きいとは思うが、それを抜きにしても、椎木知仁(Gt/Vo)たらしめる部分をより深く歌っているように感じた。とはいえ、My Hair is Badは、今までも“赤裸々”と呼ぶに相応しいほどに、自分の身にあった出来事をストレートに楽曲にしてきていたバンドではあった。けれど、心と身体は別物だという精神論を歌った「心はずっと」や、自身の性格について書いたであろう「子供になろう」のように、ここまでの具体性を持って“椎木自身”について描いている曲は初めてなのではないだろうか。人と会うことができず、自分自身としか向き合うことができなかった数ヵ月を経たからこそ気付けたことや、信じたいと思えたもの、歌えるようになったことが確かにあったという手応えが感じられる。

 そして「love」には、恋人へ向けた温かい決意を歌った「味方」と、好きな子が乗り込む電車が発車するまでの3分半を鮮明に描写した「グッド・バッド・バイ」、恋人がいる女性に恋をした男性の心情を痛烈なまでに描いた「予感」の3曲が収録されている。ラブソングという括りとしては全て同じだけれど、曲調はもちろん、見える景色も関係性も、全て違う物語。これらのストーリーが椎木の実体験に基づいているのか全てが創作なのかは分からないが、心情と場景の描写バランスが抜群に良いから、聴き手もぐっと入り込みやすい。ふたりだけの交換日記ではなく、誰もが観ることのできる映画やドラマのような、聴者が入り込む余地がこの3曲にはある。そして、その上で改めて思ったのは、My Hair is Badのラブソングには、「辛そうだから、自分はこうなりたくない」ではなく、「辛そうだけれど、自分もこうなってみたい」と思わせる美しさがあるということだ。<オリンピック中止のニュースすら/聞こえないくらい恋してた>(「予感」)と言えるくらい本気になれたら、と思わずにはいられないし、物語に躍動感をもたらすメロディのアプローチもまた、そういった焦がれる気持ちを一層強くさせる。

 lifeとlove、どちらもMy Hair is Badが今までずっと歌い続けてきたことではあるけれど、「白春夢」の一節を借りるのなら、<もう元に戻るより 元より良いように>間違いなく向かっている。時代が大きく移り変わる最中、「変わっていくこと」への不安が世に蔓延しているこのタイミングで、彼らが前向きかつ着実に、臆することなく変わっていっている姿は心強い。人と人が触れ合うと安心するのと同じような感覚を抱かせる、珠玉の6曲だ。

【文:峯岸利恵】



My Hair is Bad - CD Single「life」/ Digital Single「love」全曲トレーラー

リリース情報

CDシングル「life」

CDシングル「life」

発売日: 2020年12月23日

価格: ¥ 1,100(本体)+税

レーベル: ユニバーサルミュージック

収録曲

01.白春夢
02.心はずっと
03.子供になろう

リリース情報

配信シングル「love」

配信シングル「love」

発売日: 2020年12月23日

価格: ¥ 1(本体)+税

レーベル: ユニバーサルミュージック

収録曲

01.味方
02.グッド・バッド・バイ
03.予感

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