レビュー
まふまふ | 2021.01.18
誰よりも痛みを知る人が、我々の心にそっと寄り添うようなとびきり優しい歌を、また新たに生み出してくれた。
マルチクリエイター・まふまふが2021年1月10日に配信リリースした「ユウレイ」は、日本テレビ系新春スペシャルドラマ『アプリで恋する20の条件』の主題歌として、脚本を元にまふまふが書き下ろしたナンバー。誰からも“選ばれない”人生を送る主人公のアラサー女子を、半分透けている“ユウレイ”になぞらえた歌詞を辿ると、遠慮がちに生きてきた“ボク”の一途な想いが浮かび上がってくる。
灰色がかった人生を一瞬で鮮やかに色づかせるような、<黙って生きてきた 口なしのボクの手を 握ってくれた>喜び。
<知らないほうがいいのかな 幸せは後味が口に残るから><見慣れたあの雲のように 忘れてください>という、不安や諦め。
それでも、<きっと人知れず霞んでしまう>“ボク”を<貴方が逃がさないように 見つめてください>と願ってしまう切なさ。
誰かを真っ直ぐに思っていても、届かなかったり。自分という存在を、なかなか認めてもらえなかったり。聴き手それぞれ、過去や現在進行形の恋愛や人間関係に重ね合わせて、共感してしまうのではないだろうか。世知辛い世の中で、優しさは報われないけれど。「ユウレイ」の放つ儚い美しさは、温かな救いをもたらしてくれる。
<お話がしたいな>と静かに独り言ちるような歌い出しから、溢れ出る想いを託した<ねえ>に始まり透明感が映えるサビへの感情の揺らぎを丁寧になぞる歌にしても。ピアノやストリングス、バンドサウンドを緻密に組み合わせた、ドラマティックな紡ぎにしても。すべてにおいて、まふまふらしさでしっかりと貫かれている「ユウレイ」には、単なる“タイアップ曲”では終わらない、表現者としての矜持もにじむ。初タッグとなるイラストレーター・谷口修が制作した不可思議なループアニメーションで構成されるMVも、その味わいをさらに深めてくれているように思う。
また、『アプリで恋する20の条件』において、ほんの一瞬ではあったものの、カフェ店員として初のドラマ出演も果たしたまふまふ。撮影当日は、緊張しながらも、キャストや監督とコミュニケーションを取りながら、初めての経験を楽しんでいたとのこと。2020年10月18日にリリースした「ひともどき」の実写MVは企画から撮影・編集まで自らが指揮を執った初監督作&初顔出し作にもなったわけだが、表現することにどこまでも貪欲な“何でも屋”は、今後も新たな扉を開けていくことだろう。
「ユウレイ」リリース同日、各音楽配信サイトおよびストリーミングサービスにて、2019年10月発売のアルバム『神楽色アーティファクト』以降に動画サイトで公開された13曲の配信もスタート。先行き不透明な日々は続くが、新年早々、鋭い感性と豊かな才能に呑まれる幸せを、今は噛みしめたい。
【文:杉江優花】
【MV】ユウレイ/まふまふ
配信はこちら
https://a-sketch-inc.lnk.to/mafumafu_Yurei
リリース情報
ユウレイ
発売日: 2021年01月10日
価格: ¥ 261(本体)+税
レーベル: A-Sketch
収録曲
01.ユウレイ