レビュー

須田景凪 | 2021.02.12

 これはいいアルバムだ。須田景凪がメジャー1stフル・アルバム『Billow』を2月3日にリリースした。キーワードは“ベッドルームから世界へ”。文字通り、須田はネット文化圏からベッドルームミュージックを突き詰め、ライブ活動によってバンドという肉体性を手に入れた。そんな彼の、さらなる進化と拡がりを感じられる1枚だ。



 なかでも1曲目「Vanilla」は、須田のこれまでとこれからが交差する作品だ。バンドサウンドにトラップを取り入れた、躍動するサウンドデザインの構築。決意表明のように感じるナンバー。2曲目「飛花」は、須田らしさを感じられながらもより開かれたポップチューンに仕上がっている。



 バルーン名義での別バージョンを披露した3曲目「刹那の渦」における、歌詞では葛藤しているが跳ねるビートが醸し出すポジティビティもいい。





 さらに、トラップ以降のダークポップなセンスを織り交ぜた「風の姿」や、シャッフルビートが気持ちいいオリエンタルな雰囲気を醸し出す「迷鳥」、ネオソウルな浮遊感ある美しさを感じさせてくれる「メメント」、ベースの効いたレゲエ風ビートからメロウな言葉がたゆたう「MUG」など、新たな領域へと踏み出した自由さなど、革新的に日本のポップミュージックの歴史を踏み出そうという気概を感じられた。



 2019年にリリースした2nd EP「porte」収録の2曲、そして配信シングルとしてリリースしてきた6曲、さらに香取慎吾に提供した「welp」のセルフカバーを含む全15曲の音絵巻。もともと、2020年初夏にリリースしようとしていたそうだが、コロナ禍の影響でリリースもツアーもフェスへの出演もすべてが吹き飛んだ。誰にあたることもできない、やるせなさを感じたことだろう。しかし、楽曲創作に向き合える時間が生まれたこと、それは須田にとってたったひとつの希望になったのではないだろうか。



 アルバムタイトルの『Billow』とは“渦巻く”ことを意味する。この特殊な状況となった1年。様々な抑圧から生まれた思想の渦。須田が生み出した、時間軸の異なる多様な作品を複合した結果、メロディアスに先鋭的なポップミュージックへの進化の渦が誕生した。その上で須田のターニングポイントとなった「veil」、「MOIL」といった、ライブでの人気曲もアルバムの曲順で耳にすると、ポップメーカーとしての有能さを改めて窺い知れる。



 この数年で、須田が感じた気持ちを記録した絶望や儚さ、やるせなさ。そして、こんな時代だからこそ大事なことが明確になったこともまた確かなのだろう。メジャー1stフル・アルバム『Billow』には、須田の渦巻く心情が濃厚に表現されている。2021年の今、聴くべきアルバム作品だ。



【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】

リリース情報

Billow

Billow

発売日: 2021年02月03日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

収録曲

01.Vanilla
02.飛花
03.刹那の渦
04.Alba
05.veil
06.Carol
07.メメント
08.MUG
09.迷鳥
10.風の姿
11.MOIL
12.はるどなり
13.welp
14.色に出ず
15.ゆるる

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