レビュー

藤川千愛 | 2020.12.14

取り繕わず、ありのままで――2018年にソロ活動をスタートさせた藤川千愛は、かたちは違えどもいつ何時もそのメンタリティに対して誠実に、そして愚直に対峙してきたように思う。

1stフルアルバム『ライカ』ではそれまで隠し持っていた毒をさらけ出し、今年4月にリリースされた2ndフルアルバム『愛はヘッドフォンから』では、自身の美や凛々しさを追求した。それを経た今作『HiKiKoMoRi』は、コロナ禍で家に引きこもることから生まれた3rdフルアルバム。そこに反映されていたのは、より感情に素直に、より自然体で音楽を楽しむ彼女の姿だった。



「喜怒哀楽の最初と最後」の歌詞<喜怒哀楽の最初と最後/抜け落ちたようなあたしだから>にもあるとおり、彼女は「怒」と「哀」の感情が強い人物で、これまでの作品にはそれらが生々しく綴られることが多かった。だが今作では、藤川がそれらを感じたことで見えた景色や、湧き上がった思想が多く綴られている。そのシンボルとなる言葉が、歌詞にも多く登場する「光」だ。彼女は闇を歌い続けてきたことで、コロナ禍というヘビーな状況に陥ったことで、かすかながらに希望を見つけることができ、その美しさに気付いたのではないだろうか。

ホーンが華やかな洗練されたポップソング「誰も知らない」や、浮遊感のあるエレクトロトラック「リフレイン」は、コロナ禍の向こう側へと想いを馳せ、ポジティブな心情を綴る。TVドラマ主題歌に起用された「ありのままで」は、それらの心情をストレートに描いたものだろう。シンフォニックで壮大なサウンドスケープと、8分の6拍子のリズムも、歌詞に綴られた想いを鮮明かつ真摯に照らしている。



赤ん坊の泣き声がアクセントになったダークポップな「Nightmare」も、悪夢のような現状を憂いながらも<Brand new dayを何に染める>と未来へと期待を膨らませるところが小気味よい。憤怒の感情があらわになった歌詞とユニークでアダルティなソウル調のサウンドのコントラストが特徴的な「四畳半戦争」には、「変わりたい」というもがきや希望、強いポリシーが威勢よく貫かれている。

ラジオボイスや台詞、規制音などが盛り込まれた激情的な「私に似ていない彼女」も、女性のゲスい本性が綴られているという見方もできるが、陰湿というよりはどこか軽やかで清々しい。それを哀愁を帯びた歌謡メロでダイナミックに歌い上げることで、女性の矛盾した恋心が生々しく浮かび上がり、非常に耽美で刺激的な楽曲に昇華された。



光を求める楽曲が多いなか、自分自身から光を生み出そうとするのが、アルバムのラストを飾る「バケモノと呼ばれて」ではないだろうか。タイアップ作品『無能なナナ』の主人公の葛藤を綴ったであろう歌詞には、自分の中にある理想が現実になってくれたらという強い願望が込められている。伸びやかな歌声とギターを基盤にした硬派なサウンドスケープが、その願いを凛と輝かせているところも非常にドラマチックだ。



様々な音楽性で構築された今作を聴いて、改めて藤川の綴る言葉の強さを痛感した。言葉が主導になりサウンドもメロディも振り回していくような楽曲展開は非常にスリリングであり、それを藤川が躍動的に歌いこなせるのも、彼女がありのままの感情を言葉にしたためているからだろう。

ボーナストラックとして収録されている銀杏BOYZ「援助交際」のカバーは、彼女が敬愛するクリープハイプが銀杏BOYZのトリビュートアルバムでカバーしたという背景を持つだけでなく、クリープハイプと同様に原曲でオマージュされたアウトロの要素を継承している。女性の本音があらわになった「私に似ていない彼女」で始まり、男性特有のロマンチシズムがふんだんに立ち込める「援助交際」で締めくくるというギミックにも、アーティストとしての余裕が垣間見られた。

2020年の彼女が見つけた景色を鮮やかに封じ込めた『HiKiKoMoRi』。今作は今後さらに吹き荒れるであろう、彼女自身の追い風となるに違いない。

【文:沖さやこ】

リリース情報

HiKiKoMoRi

HiKiKoMoRi

発売日: 2021年11月24日

価格: ¥ 1,818(本体)+税

レーベル: 日本コロムビア

収録曲

01.私に似ていない彼女
02.四畳半戦争
03.誰も知らない
04.ありのままで
05.Nightmare
06.ワレモノ注意
07.リフレイン
08.記憶
09.喜怒哀楽の最初と最後
10.バケモノと呼ばれて
11.援助交際(Bonus track) ※オリジナル:銀杏BOYZ

<初回限定盤Blu-ray収録内容>
藤川千愛 YouTube Live 2020「愛はヘッドフォンから」
01.東京
02.神頼み
03.嗚呼嗚呼嗚呼
04.私にもそんな兄貴が
05.あさぎ
06.悔しさは種
07.おまじない
08.あした朝食を食べる頃には
09.あなたを嫌いになれました
10.べつにいいけど
11.引き寄せられて夢を見る
12.田中が彼氏だったなら
13.愛はヘッドフォンから
14.遥か彼方

お知らせ

■配信リンク

『HiKiKoMoRi』
https://nippon-columbia.lnk.to/IXcSXvGY



■ライブ情報

藤川千愛 Zepp TOUR 2020-2021『HiKiKoMoRi』
2020/12/06(日)Zepp Osaka Bayside
2020/12/12(土)Zepp Nagoya
2020/12/26(土)Zepp Sapporo
2021/01/31(日)Zepp Fukuoka
2021/02/06(土)Zepp Diver City

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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